妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「なぁ、いつから気づいてたんだ?」
憂炎はわたしの止血をしながら、小さくため息を吐く。
「そんなの一番初めからに決まっている。凛風の代わりに華凛が入内してきたときは、本当に憤死するかと思った」
「……そんな様子、おくびにも出さなかったくせに」
その瞬間、色んなことが腑に落ちた。
憂炎は『凛風』がわたしじゃないって気づいて、だから後宮にも通わなくって。
だから『華凛』――――わたしを自分の元に呼び寄せた。わたしが『凛風』に戻るように、そう仕向けたんだ。
「格好悪いだろ。好きな女にまんまと逃げられて。真っ正直に『入れ替わってるだろ』って指摘するなんて、俺にはとても出来なかった」
「そうだな……おまえ、カッコつけだもんな」
クスクス笑いながら、涙が零れる。あーーあ、最初からバレてたなんて思わなかった。本当バカみたい。
「…………後宮に連れ戻したら、さすがのおまえも観念すると思ってた。諦めて、俺の妃として生きてくれるって。だから、園遊会の夜、後宮で華凛の姿を見たときは、本気で落ち込んだよ」
「あぁ……そうか。だから翌朝、あんなにネチネチ怒ってたのか」
憂炎はわたしの手をギュッと握る。温かくて大きな手のひら。こんな風に手を繋ぐのは、一体どれぐらいぶりだろう。ささくれだった心が満たされていく心地がした。
「だけど俺は、あの時になってようやく気づいたんだ。無理やりおまえを『凛風』に戻したところで意味が無いって。おまえ自身が『戻りたい』って思わないと、きっと何度でも同じことを繰り返してしまう」
「うん、そうだね。本当、その通りだと思う」
もしも二度目の入れ替わりの後、すぐに後宮に連れ戻されていたとしたら――――わたしはきっと、また逃げ出していた。
何度でも、何度でも、憂炎の元からいなくなったと思う。
「だから俺は、凛風が『自分から戻りたい』って思ってくれるように、気持ちを切り替えた。正直、俺の気持ちがおまえに全く伝わっていなかったってのは想定外だったけど」
「……だって! だって、おまえとわたしってそんな感じじゃなかったし」
「おまえはそうでも、俺は違う。俺はずっと凛風のことが好きだったよ。ずっとずっと、凛風だけを見ていた」
憂炎の瞳が熱くて優しい。
あぁ、そうか。
憂炎はずっと、『華凛』の中にいる『わたし』を見ていたんだ。憂炎が口にした『凛風』への想いも、さっきの――――華凛への口付けも――――全部全部わたしだけのものだった。
そう思うと、涙が溢れて止まらない。
「……ねぇ、戻っても良い?」
憂炎が唇でわたしの涙を拭ってくれる。愛し気に、慈しむように触れられた唇が、あまりにも優しくて、欲しくて堪らなくなる。
「わたし……憂炎の妃に、戻っても良い?」
涙でぐちゃぐちゃで、前なんてまともに見えない。だけど、憂炎の紅い瞳だけはやけにハッキリ見える。
「言っただろう、俺の妃は凛風だけだって。――――早く戻って来い、バカ」
そう言って憂炎は幸せそうに――――とても幸せそうに笑った。
それがあまりにも嬉しくて。幸せで。
憂炎の口付けを受け入れながら、涙がずっと、止まらなかった。
憂炎はわたしの止血をしながら、小さくため息を吐く。
「そんなの一番初めからに決まっている。凛風の代わりに華凛が入内してきたときは、本当に憤死するかと思った」
「……そんな様子、おくびにも出さなかったくせに」
その瞬間、色んなことが腑に落ちた。
憂炎は『凛風』がわたしじゃないって気づいて、だから後宮にも通わなくって。
だから『華凛』――――わたしを自分の元に呼び寄せた。わたしが『凛風』に戻るように、そう仕向けたんだ。
「格好悪いだろ。好きな女にまんまと逃げられて。真っ正直に『入れ替わってるだろ』って指摘するなんて、俺にはとても出来なかった」
「そうだな……おまえ、カッコつけだもんな」
クスクス笑いながら、涙が零れる。あーーあ、最初からバレてたなんて思わなかった。本当バカみたい。
「…………後宮に連れ戻したら、さすがのおまえも観念すると思ってた。諦めて、俺の妃として生きてくれるって。だから、園遊会の夜、後宮で華凛の姿を見たときは、本気で落ち込んだよ」
「あぁ……そうか。だから翌朝、あんなにネチネチ怒ってたのか」
憂炎はわたしの手をギュッと握る。温かくて大きな手のひら。こんな風に手を繋ぐのは、一体どれぐらいぶりだろう。ささくれだった心が満たされていく心地がした。
「だけど俺は、あの時になってようやく気づいたんだ。無理やりおまえを『凛風』に戻したところで意味が無いって。おまえ自身が『戻りたい』って思わないと、きっと何度でも同じことを繰り返してしまう」
「うん、そうだね。本当、その通りだと思う」
もしも二度目の入れ替わりの後、すぐに後宮に連れ戻されていたとしたら――――わたしはきっと、また逃げ出していた。
何度でも、何度でも、憂炎の元からいなくなったと思う。
「だから俺は、凛風が『自分から戻りたい』って思ってくれるように、気持ちを切り替えた。正直、俺の気持ちがおまえに全く伝わっていなかったってのは想定外だったけど」
「……だって! だって、おまえとわたしってそんな感じじゃなかったし」
「おまえはそうでも、俺は違う。俺はずっと凛風のことが好きだったよ。ずっとずっと、凛風だけを見ていた」
憂炎の瞳が熱くて優しい。
あぁ、そうか。
憂炎はずっと、『華凛』の中にいる『わたし』を見ていたんだ。憂炎が口にした『凛風』への想いも、さっきの――――華凛への口付けも――――全部全部わたしだけのものだった。
そう思うと、涙が溢れて止まらない。
「……ねぇ、戻っても良い?」
憂炎が唇でわたしの涙を拭ってくれる。愛し気に、慈しむように触れられた唇が、あまりにも優しくて、欲しくて堪らなくなる。
「わたし……憂炎の妃に、戻っても良い?」
涙でぐちゃぐちゃで、前なんてまともに見えない。だけど、憂炎の紅い瞳だけはやけにハッキリ見える。
「言っただろう、俺の妃は凛風だけだって。――――早く戻って来い、バカ」
そう言って憂炎は幸せそうに――――とても幸せそうに笑った。
それがあまりにも嬉しくて。幸せで。
憂炎の口付けを受け入れながら、涙がずっと、止まらなかった。