夏ラムネ
『蘭野、おはよう〜』
会話だといえるものは少なくても、必ず挨拶をして少し微笑んでくれる。
おはようと微笑み返すと、もっと笑って席に着くのがいつもの事。
唯一の違いは、机の上に置かれたラムネの瓶。
それ、俺も好き。…だなんていきなり言ったら困る、よな?
でも何故かその青色の瓶は、一日中周りに水滴を敷きつめて動かなかった。
炭酸が抜けるの、待ってたとか?
「じゃ、穂高。貸し1な?」
「はあ?」
片良瀬が倒れたのはその翌日、学年集会の最中だった。
一瞬ざわ、と空気が揺れた後、「片良瀬さん!」とクラスメイトの声が耳に届いて、後ろのほうにいる片良瀬の元へ駆け出す。
初めて君に届いた。
体調が悪いのに“良かった”と思ってしまう気持ちは奥に捨てて、せめてもの償いで水を買ったのだけれど。
あー、フルーツ系の飲み物のほうが好きだったかな。
いやでも、体調不良で甘い飲み物は…
「百面相〜」
「うるさいよ和音弟」
「やめて!?」
“ビー玉を抜くと炭酸の抜けが早いらしい”
昼休み、和音弟に聞いた話を聞いてすぐコンビニまで走ってラムネを買ったけれど、肝心の開け方を知らない。