夏ラムネ
ドン、パリン
「…ぱりん?」
スリッパを鳴らしながら音のした方に行くと、棚に散らばったガラス片と、一人の男の子が苦笑いを浮かべて立ち尽くしていた。
「蘭野(らんの)…?」
同じように「片良瀬(からたせ)」と私の苗字のとおりに口が動く。でも、いくらガラスが割れていたって声は聞こえない。
ま っ て て
お願いするように手を合わせて、昇降口のほうへ走っていった。
無意識に髪を整えてしまう。
少しだけ深呼吸をしてから、よれたスカートと曲がった朱色のネクタイを直した。
数分後、扉の開く音が聞こえると同時にふわりと揺れるベージュの髪が目に入る。
「片良瀬」
「あ、おはよう蘭野」
「体調平気?」
蘭野 穂高 (らんの ほだか)。
同じクラスで隣の席。気さくでいつも周りには人だかりが出来ている。
綺麗な顔とか、モデル並のスタイルの良さだけじゃきっとこんなに人気者にはなれない。