夏ラムネ
「片良瀬 咲(さく)さん」
「…なに改まって」
「保健室の和音(わのん)先生がニガテです、一緒に謝ってもらえませんか」
「今日も蘭野くんは運が悪いのでした、おしまい」
「終わらすな」
それから職員会議中の和音先生が帰ってくるまでに、私たちは謝る言葉を考えた。
くるくる回る椅子の上で悩む彼を横目に、私は首を傾げた。
なんで、和音先生がニガテ?誰とでも仲良くできるのに?
男の先生で、若いし…誰とでも良い関係になれる蘭野なら尚更、合うと思うけどなあ
「本当はなにして割れたの?」
「ビー玉投げた」
「意味わかんない…」
話は逸れて逸れて、蘭野はガラスのことなんて跡形もなく消えてしまったらしい。
暑そうにシャツを仰ぎながら、私があげたチョコレートを食べている。
夏に溶けてしまいそうなチョコレートは、いつもより甘そうに見えた。
「ぼーっとしてるよ、体調大丈夫?」
「あ、ごめんね大丈夫、生まれつき。
保健室は常連だよ…って言っても、二年生になってからは来てなかったかも」