夏ラムネ
一番下に書いてあるのは、当然“片良瀬 咲”と私の名前。…なのはなんで?
今まで寝てたのに書けるわけないのに。
運んできてくれた人は千彰じゃないはずなのにな…
「…蘭野が私のこと運んでくれたの?」
「うん、そう」
見覚えのある丸みのある文字は日直の時、日誌で見たものと似ていた。
隣の席の私だけの特権、思いつくのは月に一度、二度くる日直。
「蘭野の字、私よりかわいいなあ」って思っていた記憶が片隅にある。
「ど、どうやって…」
「ただいまー、咲平気?」
口を開いてすぐ、和音先生の声が保健室に響いた。瞬間、蘭野は止まる。
何故か割ったガラス窓を見るけれど、惨状は変わらないらしく、割った時と同じような顔で叱られるその時を待っていた。
「んあ?穂高?お前が保健室とか似合わねえな」
ケタケタ笑う和音先生に対して、死んだ目をした蘭野。
仕方ない、と立ち上がると不思議そうに私を見つめる先生。続けて立つ蘭野と一緒に頭を深く下げた。