スキナダケ
「さよなら…でしょもう…。ハナのこと通報するよね?そしたら夕海とも、もう会えない。ここで終わりなんだよね?」

涙が流れる。

夕海が泣いてたから。

大事なのに、ハナには夕海しか居ないのに、夕海はハナのせいで泣いてるんだ。

なのに、夕海はハナを抱き寄せた。
夏のせいかもしれないけれど、体温がすごく高い気がした。

「誰にも言わない。さよならなんてしない」

「え…」

「誰かに言う必要なんて無いじゃない。今日までうまくやってこれたのは、そういうことでしょ。知られる必要が無かったんだよ。知らない誰かの命よりハナちゃんを失くすことのほうがずっとずっと嫌だよ。言ったでしょ?ハナちゃんは私の物だって。さよならとかなんとか、ハナちゃんに決める権利無いから」

「…うん。分かった…」

こんな理屈、誰が納得するんだろう。
間違ってる、何もかも。
そんなことくらい分かってる。

それでも夕海を失くさないでいられるのならそれがいい。
夕海がまだハナを選んでくれるのならそれがいい。

それしか要らない。

ハナの散々汚れてきた体にくっついて「ハナちゃんの匂い」って夕海が言った。

安心した赤ちゃんみたいに目をつむっている。

夕海もどこかが狂ってしまってることに、ハナも安心した。
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