スキナダケ
リビングの隅に、夕海がこの家にやって来た日に持っていたキャリーケースが立てて置いてある。

夕海は今日の夕方、自分の家に帰ってしまう。
電車で一時間くらいの距離だ。
そう遠くはない。
会おうと思えばいつでも会える。
でもハナは、夕海の家の位置までは知らない。

「楽しかったなー、夏休み。ハナちゃんは?」

「んー、うん。楽しかった」

「あはは。全然そんな風に聞こえなーい。ま、いっか。またいつでも会えるよ」

「…だといいけど」

だんだんと眠たくなってきてる目をこすって、起き上がった。
夕方になったら夕海は行ってしまうのに、寝てしまうなんてありえない。

起き上がって、当たり前みたいにキスをした。
夕海が食べてたアイスのみかんの味がした。

「ただいまー、ハナちゃーん!いるー?」

玄関からママの声がする。
構わないで夕海とキスを繰り返した。

夕海が右手で持ってたアイスの残りが溶けて崩れて、地面に落ちた。

「ハナちゃーん?」

バタバタと玄関から上がってくる音が聞こえた。
ちょっとだけ夕海から離れてリビングのドアを見てたら、ママが入ってきて「あっつ!」って言った。
< 121 / 235 >

この作品をシェア

pagetop