スキナダケ
「なんでこんなに暑いのに窓なんて開けてんのよー」

ママは嫌そうに顔をしかめながら窓を閉め切った。

それからやっと気付いたみたいに夕海とリビングの隅のキャリーケースを順番に見てから「帰るの?」って夕海に訊いた。

「はい。お邪魔しました」

「別にいいわよ。てか、なんもしてないし」

ママは夕海が見てるのに全然気にしないで、いつもみたいに当たり前にハナの口にキスをした。

夕海はジッと見てたけど、何も言わなかった。
さっきまで夕海としてたキスが上書きされちゃって、ハナは嫌だった。

まだ朝の十時を過ぎたところなのにママはちょっと酔ってるみたいだった。
アルコールのにおいがした。

「ねぇ、今から一緒にランチ行かない?あなたも来ていいわよ。最後だし、ご馳走するわ。ご馳走するのはパパのお金だけど」

ママは上機嫌だった。
ご馳走してくれる財布の「パパ」が誰を指してるのかもハナには分からない。
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