スキナダケ
「行かないよ。まだお腹空いてないし。夕海と出掛ける約束してる」

「出掛けるってどこに?」

「どこでもいいでしょ。ママ、ちょっと寝たほうがいいんじゃない?酔ってるみたいだし体に悪いよ」

「えー、ハナちゃん心配してくれてるのぉー!大好き!」

ママがハナを抱き締めてくる。
拒否するわけにもいかなくて黙ってジッとしてた。

夕海と出掛ける約束なんてしてないけど、夕方までは二人で居たかった。
いつもほとんど帰ってこないくせに、なんでよりにもよって今日帰ってくるんだろうって思った。

「ママ、もう分かったから」

やっと体を離したママは、ハナの顔を見て、言った。

「ハナちゃん、声変わり?」

ちょっと前にも夕海に言われた言葉にまた少し動揺した。

動揺することなんて無いし普通のことだ。
むしろハナは周りよりちょっと遅かったかもしれない。
中二か中三で変声期を迎えた同級生がほとんどだった。

夕海に言われた時よりも声が出しにくかったり裏返ったりする。

「身長もまた伸びたのね。ほーんと、どんどんいい男になっちゃってー!」

ママは嬉しそうにハナを眺めて称賛した。
その称賛が全部、ママ自身に宛てての物だって、ハナは知ってる。
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