スキナダケ
夕海がハナを見上げてクスクス笑う。
やけに楽しそうだった。

「なんで笑うの」

「んーん。ハナちゃんは私服なんだよね、学校。ちぐはぐの制服着てなくて良かったなって」

夏休み。ハナの部屋で夕海に着させられた中学の時の制服と、過去に殺した女子に貰った制服のことを言っているんだろう。

あの頃よりももっと、夕海がハナに憧れていた頃よりも、もっともっと、ハナは男になった。
あんな格好、遊びでももう絶対にしない。

「綺麗な人だね。友達?」

ずっと蚊帳の外だった男子が夕海に訊く。
なんて答えてくれるんだろうってハナはちょっとドキドキした。

「ううん」

そうだよね。ハナと夕海は友達じゃない。
友達より、もっとずっと…。

「親戚だよ」

…親戚?

「へぇ。家族のことあんまり聞いたこと無かったしちょっとびっくり。いとこ…とか?」

「んー、まぁ、そんな感じ?複雑なの。ね、ハナちゃん」

夕海は、ふふって笑ってハナに同意を求めた。
ハナは声が出せなかった。

そんなんじゃない。
そんなんじゃないのに喉の奥を接着剤で固められてしまったみたいに、声の出し方を忘れてしまったみたいに、何も言えなかった。

「あはは、複雑なんだ。じゃあまた今度ゆっくり話聞かせてよ」

「うん、そうだね。ハナちゃんって面白いんだよ。趣味も多いし。ね?今度一緒にご飯でもいこーよ」

「それじゃあ、えっと…ハナさん?僕達そろそろ行きますね。これから映画を観るんです。始まっちゃうので。また…」

「待って」
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