スキナダケ
「嘘…言うなよ…。現にハナのことなんて忘れてこんな男とツルんでさぁ!?ハナより小さくて顔も幼くて、ハナより弱そうじゃんか。結局夕海は可愛い男の子が好きで、ハナがそうじゃなくなったから次はこんな奴を選んだんだろ!?約束したのに嘘つき…。本当に…本当に好きだったのに…。でももういいよ」

「ハナ…ちゃん…?」

「もういいよ。夕海?願いを叶えてあげる」

「願い…って…?」

「可愛い男の子が好きなんだよね?中性的で華奢で、男か女か分かんないような、さ…」

「そんなこと…」

「ハナね、夕海がずっと好きでいてくれるような、ずーっと心酔しててくれるような可愛い男の子でハナだっていたかったよ。夕海に出会うまで自分が何者なのかも分かんなかった。この顔のせいで逆に異常者みたいに扱われてさ。気味悪がられて中学では軽いイジメに遭ってたんだ」

彼氏がハナを見る。
憐れむような目。
惨めだった。

「友達も居ない。ハナの話を聞いてくれる人も居ない。家でもほとんど一人だった。ママは自分の遺伝子を引き継いだハナみたいな男の子を産んだことをアクセサリーみたいに自慢げにぶら下げて、愛してるって言いながら自分の偉業に酔ってるだけ。夕海の言う通り。ハナはママの所有物で、飼われて、縛られてた。でも夕海が会いに来てくれて、夕海だけが分かってくれた。話を聞いてくれた。何者にもなれなくても夕海が居てさえくれればだいじょうぶだって思えた。こんな見た目でも、男でも女でも…ハナはハナのままでいいって…」

「ハナちゃ…」

「でもね。違ったんだよ。ハナが男になりたいとか女になりたいとかじゃない。夕海が言ってくれた、ハナはハナのままでいいって、それもそのままの意味だったんだ。ハナはハナのまま、男なのに可愛いハナちゃんでいなきゃいけなかった。
ハナが決めることじゃなかったんだ。夕海の為にハナはハナのままでいなきゃいけなかったのに…ハナは勝手に、普通の男になっちゃった。声変わりをして体も大きくなって、力も強くなった。そこら辺の普通の人間と同じ。ハナがハナで在る意味なんてもうなんにも無い。その証明がお前だ」
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