スキナダケ
夕海の薬指を刺した時よりももっと太くて強い感触。

刃先から手の平に感じたことの無い感覚が走った。

今まで何人の人間を殺してきても感じられなかった感覚。

快感とも達成感とも違う。
虚しさと近いソレがジワジワとハナの身体中を侵食していく。

ハナは満たされないんだって。もう何をやっても。
幼い頃からの焦燥感。孤独。命の価値。
何をやっても理解出来ないし、満たされない。

それを突きつけられた瞬間に、ハナがこの世で一番くだらないガラクタになった。
実感したのはそれくらいだった。

性器よりもちょっと上。
彼氏の太ももの付け根からドバドバと血が流れる。

ハナが突き刺したナイフが綺麗に突き立って、自分で抜くことも出来ずにのたうち回る。
あの時、マンションの一室で刺した金髪と同じだ。
そのナイフを引き抜けばどうなるか、コイツも理解してるんだ。

「ヤるわけないじゃん。バーカ」

夕海が両腕をぶらんと垂らして、魂の抜けた人形みたいに呆けている。

夕海に体を寄せて耳元で言った。

「欲しかった?夕海だけの可愛いオモチャ。ヤッてあげないよ。それじゃあお仕置きになんないからね」

夕海は何も言わなかった。
のたうち回る彼氏もほっといて、ハナはスマホを取り出した。
お父さんにメッセージを送る。

「そろそろ上がってきて」
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