スキナダケ
「で?あの通りにすんのか?」

「うん。お願い」

「あの通りって何…」

「心配しないで。夕海に苦しい思いはさせないから」

夕海の瞳が揺れてるように見えた。
夕海に苦しい思いはさせない。
本当だよ。

「立てる?」

ベッド脇に立って夕海に手を差し出したら、案外素直に従ってくれた。
自分の脚でしっかり立てるみたいだし安心した。

「お前は?」

彼氏を見下ろしたらこれ以上危害を加えられないようにか、なんとか立ちあがろうとしたけれど当然無理で、産まれたての小動物みたいにベッドの上でへたり込んだ。

「いいよ。分かってる」

ハナが言って、お父さんを見たら、お父さんは一回廊下に出て、階段から玄関に向かって声を上げた。

「おい、上がってこい」

トントントン、と階段を上る音。
お父さんよりちょっと年下くらいの男性が二人、ハナの部屋に入ってきた。

お父さんが家に帰ってきた後に、この人達もやってきて、お父さんが指示をするまで玄関で待っていたのだろう。

お父さんが顎で彼氏のほうを指したら、一人が脇の下から抱え込んで、もう一人は脚から彼氏を持ち上げた。

「荷室に転がしとけ」

「はい」

簡潔な指示に従って、彼氏を抱えたまま男性達は階段を下りていった。

彼氏はずっと、助けてくれって連呼していた。

「私達のことどうするの!?」

「内緒」

「ハナちゃん!お願い助けて…!なんでもするからお願い!」

「あっはは」

「なんで笑うの!?」

「こういう時さ、ドラマでも映画でも、みんななんでもするからって言うよね。なんでもはしないくせに。なんでもするんだったら死ねばいいのに」

「死ぬ代わりになんでも…」

「しないでしょ?」

「…」

「じゃあやっぱりハナの目の前で彼氏の性器切ってよ。これからハナの代わりに邪魔な害悪は全員殺してよ。一生ハナの物で居て、ハナの言うことだけ聞いて生きていってよ。出来る?出来ないよね?夕海の覚悟ってその程度なんだよ。少なくとも、ハナに対しては」

夕海は目を伏せて、目の前に居るのになんとか存在を消そうとしてるみたいに見えた。

どこにも逃げ場なんて無いのに。
もう、終わりなのに。
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