スキナダケ
夕海はハナが思うよりもずっと普通の人間で、普通の女子高生で、そんな簡単な理由でハナを裏切れるような人間だなんて思いたくなかった。

だったらハナが変えてあげなくちゃ。
夕海がハナに本当の恋を教えてくれたように、ハナも夕海に教えてあげなくちゃ。

「じゃあ、夕海。今から分かってね。ハナが全部教えてあげる」

「え…」

まずは、もう決まってる。
ハナと夕海の何もかもを壊したこの害悪はもう要らない。

コイツから消さなきゃ。

パイプ椅子に座るお父さんの横で、立ったままジッと待っていた男性に、さっき車で受け取った鞄を渡した。

男性は全てを理解した顔で頷いて、鞄を受け取った。

この場所には砂利で整備されている敷地と、まだ整備されていてないスペースがあって、何本かの木が植っている。

そのうちの一本の木の傍にテーブルリフトが一機準備されていた。
キャタピラーで動くようになっている。

そのリフトに男性が乗って、上へと上がっていく。

「一番高くてどこまで上がるの?」

お父さんに訊いたら「六メートルだ」って応えてくれた。

「へぇ。高そうな重機だね」

「たけぇんだよ」

「華楽さん、今日は四メートルでいいですか?」

「うん。十分だよ」

上まで上がった男性が頷いて、四メートルの高さでリフトは止まった。

鞄から先が輪っかになったロープを取り出して、木の太い幹にくくりつける。

男性が親指と人差し指でOKサインを作って、またゆっくりとテーブルリフトが低い位置まで下がってきた。

「幹、折れないかなぁ」

「大丈夫だと思いますけど、失敗したら成功するまで何度もやればいいですよ」

けっこう残酷なことをサラッと言うんだなって思って、ハナはこの男性が気に入った。
今日限りの付き合いになることが残念だ。
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