スキナダケ
「ハナちゃんはさ、普段自分のことなんて呼んでるの?」

「僕、だけど」

「嘘」

「嘘じゃない」

二人で掛けたブランケットの中で夕海がハナの指先で遊んでる。指一本一本の爪をなぞったり、小指を握ってみたり。

夕海の顔はただ天井を見つめてた。
体温が高かった。
普段から高めなのかは分からない。

稼働させた冷房の風にちょっと寒そうにしていた。
ハナはその風が心地良くて眠ってしまいそうだった。

「ハナ」

「ハナ?」

「うん。ほんとはハナって言ってる。友達の前でも」

「なんで?」

「小さい時からママがそう呼ぶから。癖だったし、初めてお父さんに会った日、僕って言ったらハナでいいって。そのほうが、いいって」

「へぇ。あのおっさん、そういう趣味あったんだ」

夕海は皮肉っぽく顔を歪めた。
笑顔かどうかよく分かんなかった。

「同性愛者?それも幼児性愛者?」

「あはは。ハナもおんなじこと言った」

「ふふ。別にいいんだけどさ。同性愛者」

「ハナもそう思うよ。人間を愛せることは素敵なことだから」

「うん。私もそう思う。愛し合える人が居るって素敵よ。どんな形でも。正しいとか間違いとか無い。自分が思う正義なら貫けばいい」

「うん」

「でも」

「でも?」

夕海が寝返りを打って、ハナの顔に自分の顔を寄せた。
耳元で夕海の声がした。

「ハナちゃんはダメ。あんなおじさんとはダメよ。あのおじさんに飼われるくらいなら私が飼ってあげる。」
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