再び、光が差す-again-〈下〉
「分からない」

「分からないってどういう事よ!」

「分からねぇけど、必ず連れて帰るんで警察にはまだ通報しないで欲しいんです」


もし、仮に、綺月と菜穂を連れ去ったのが杏樹だとしたら、警察が関与して事を大きくはしたくない。

でもそれを理由も分からずに承諾してくれるほど、娘を思う母親の気持ちはそんなに軽くない。


「あなた自分が何言ってるか分かってるの?
あの子に何かあったら責任取れるの?」

「明日までに綺月を連れて帰らなかったら警察に連絡してもらっても構わないです。
今は俺に心当たりがあるんで、任せて下さい、お願いします」


俺は綺月の母親にこれでもかってくらい深めに頭を下げる。


「必ず大丈夫なんで、絶対怪我一つせずに帰すんで一日だけ待ってください、お願いします」


今まで大人に頭なんて下げたことはなかった。

なんとか残っていた僅かばかりのプライドが邪魔して大人に歯向かおうとしていたが、綺月と出会ってからそんなちっぽけなプライドなんかいつでも捨てれる気がした。
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