再び、光が差す-again-〈下〉
「有り得ないよね、彼女に会う時はあんな清潔感のある格好してさ!似合ってないし!」


驚いた声を出した私と同じくらいの声量で菜穂は幸人の悪口を零す。

まるで、彼女に嫉妬しているかのような言い方だった。

菜穂も言った後に気付いたのか、足を止め、やっと振り返り私のほうを見る。


「今の無し!聞かなかったことにして!」


菜穂は私の両耳に手を当て塞ぐ。

今更そんな事をしても、しっかりと聞いた後ですぐに忘れるほど都合の良い耳は持ち合わせてはいない。

それに、菜穂が幸人のことを好きだということは、恋愛に疎い私でさえ見ていれば察しくらいつく。

今まで菜穂とは恋愛の話なんてお互い全くして来なかった。

そもそも恋愛に疎い私に話しても盛り上がるとは思えない。

それに、菜穂は恋バナが多分最も苦手だった。

前にクラスメイトと彼氏はいるのかみたいな話の流れになり、どんどん盛り上がる中、真っ先に一抜けしたのは話に全く付いていけなかった私よりも、話に乗ってきそうな菜穂の方だった。

だから、こんなにあたふたしている菜穂を見るのは新鮮で珍しかった。


「私、今どんな顔してる?」


好きな人のデート現場を目撃してしまって複雑な表情をしている菜穂が聞いてくる。

私はそのまま「複雑な表情」と返した。

それから菜穂は何も発さず、ずっと複雑な表情のまま溜まり場までの道のりを歩いた。
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