再び、光が差す-again-〈下〉
「それにまた会えるなんてそうそう無いと思うよ」

「でも、気になるんだよね」


会える確率が物凄く低いことも分かっている。

でも、あの男の誰も映したりしない色の無い真っ黒な目が気になってしまうんだ。


「…え?浮気?」

「ち、違う!
ただ、返したいだけ」


時が止まっているから明日が来ても何も変わらないと話していた男の横顔があまりにも寂しそうで、私はこの傘を返して変わらない明日は無いことを教えてあげたかった。

傘を持って偶然を信じ、あの男を探している時間があったのだと男に教えてあげたかった。

あなたが思っている以上に、人はどこかしらであなたを考えていることを知って欲しい。


「本当、お人好し」

「菜穂も十分お人好しだと思うけど」


私と菜穂は顔を見合せ「じゃ、お互い様だ」と言って一緒になって笑った。
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