政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
ダレクさんから押し付けられるように渡された手紙を受け取り、暫く一人にしてくれと言って部屋に引きこもった。
これまで書き物机の引き出しに入っていたのは全て前のクリスティアーヌに宛てられたもの。
この手紙も夫は前のクリスティアーヌに宛てたのは同じ。
はたしてこれを読んでいいものかどうか。
封筒の表に書かれたクリスティアーヌの名前も、裏に書かれた彼の名も今ではしっかり読み取ることができる。
男らしいしっかりした筆跡で丁寧に書かれた文字。
最後の一画を跳ね上げるのが癖みたいだ。
新婚の夫からの手紙。
本当なら胸が踊ることだろう。
私は胸に手を当てて鼓動を確かめる。
このドキドキは私のものだろうか。それともクリスティアーヌ?
このドキドキは新妻のそれなのか。何が書かれているのかわからない恐れからだろうか。
読む?読まない?
マリアンナたちは手紙の中身について直接訊ねることはないだろうが、きっと私の反応がどんなものか気になっているだろう。
深く深呼吸をして、私は徐にペーパーナイフで封筒を開けた。
「………………………え?」
中の文章を読んで、知らない単語がいくつかあったが、おおよその内容は読み取ることができた。
だからこそ、その内容に小首を傾げる。
「え?何これ?」
何度も、何度も読み返し、文字通り穴が空くほどその紙面を見つめる。
「だ、だだだだだ、ダレ、ダレクさん」
がしっと手紙を握りしめ、慌てて部屋を飛び出し執事を探しに行った。
私がいたのは三階の部屋。階段を駆け降りるとすぐそこに目当ての執事がメイド長のマリアンナと共に立っていた。
「おや、奥様……いかがなさいましたか?ご用があれば呼び鈴を鳴らしていただければ参りますのに」
慌てて階段を降りてきた私に涼しい顔で彼は言う。
「わ、忘れていました……」
もともといくら主人と使用人と言えど呼び鈴で呼びつけるのは好きではなかったが、この時の私はすっかり動転して忘れていた。
「ご用件は何でございましょう」
「あ、そうだ。これ、これ」
私は右手に握り締めた手紙を指差す。
「これ?それは、旦那様からのお手紙ですか?」
「奥様、落ち着いてください」
ダレクさんもマリアンナさんも私の慌てぶりに困惑している。
「何か大変なことでも書かれておりましたか?」
「これ、おかしいの、大変なことと言うか、変なの。私が書いた詩がどうとか、手紙がどうとか、私は手紙なんて書いて…」
「は?私は確かに奥様が旦那様に書いた手紙を定期の私の報告書とともにお送りしましたが」
「え?今なんて?」
執事の言葉に私の思考が一瞬止まった。
「奥様が倒れられたことも記憶を失くされたこともご報告させていただいております。お仕事ですのですぐにはお帰りいただけないことは承知しておりますが、旦那様のお留守の間にこの屋敷であったことはご報告する義務がございます」
「じゃなくて、手紙……私は手紙なんて書いていませ」
言いかけてはっと気づく。
手紙は書いた。フォルトナー先生に宿題だと言われて何通も。
「ま、まさか……フォルトナー先生……私の手紙って先生から」
「はい。先生を通じてお預かりしておりますよ。昨日までの分は先ほどの早馬に託しました」
私の顔から血の気が一気に引いた。
これまで書き物机の引き出しに入っていたのは全て前のクリスティアーヌに宛てられたもの。
この手紙も夫は前のクリスティアーヌに宛てたのは同じ。
はたしてこれを読んでいいものかどうか。
封筒の表に書かれたクリスティアーヌの名前も、裏に書かれた彼の名も今ではしっかり読み取ることができる。
男らしいしっかりした筆跡で丁寧に書かれた文字。
最後の一画を跳ね上げるのが癖みたいだ。
新婚の夫からの手紙。
本当なら胸が踊ることだろう。
私は胸に手を当てて鼓動を確かめる。
このドキドキは私のものだろうか。それともクリスティアーヌ?
このドキドキは新妻のそれなのか。何が書かれているのかわからない恐れからだろうか。
読む?読まない?
マリアンナたちは手紙の中身について直接訊ねることはないだろうが、きっと私の反応がどんなものか気になっているだろう。
深く深呼吸をして、私は徐にペーパーナイフで封筒を開けた。
「………………………え?」
中の文章を読んで、知らない単語がいくつかあったが、おおよその内容は読み取ることができた。
だからこそ、その内容に小首を傾げる。
「え?何これ?」
何度も、何度も読み返し、文字通り穴が空くほどその紙面を見つめる。
「だ、だだだだだ、ダレ、ダレクさん」
がしっと手紙を握りしめ、慌てて部屋を飛び出し執事を探しに行った。
私がいたのは三階の部屋。階段を駆け降りるとすぐそこに目当ての執事がメイド長のマリアンナと共に立っていた。
「おや、奥様……いかがなさいましたか?ご用があれば呼び鈴を鳴らしていただければ参りますのに」
慌てて階段を降りてきた私に涼しい顔で彼は言う。
「わ、忘れていました……」
もともといくら主人と使用人と言えど呼び鈴で呼びつけるのは好きではなかったが、この時の私はすっかり動転して忘れていた。
「ご用件は何でございましょう」
「あ、そうだ。これ、これ」
私は右手に握り締めた手紙を指差す。
「これ?それは、旦那様からのお手紙ですか?」
「奥様、落ち着いてください」
ダレクさんもマリアンナさんも私の慌てぶりに困惑している。
「何か大変なことでも書かれておりましたか?」
「これ、おかしいの、大変なことと言うか、変なの。私が書いた詩がどうとか、手紙がどうとか、私は手紙なんて書いて…」
「は?私は確かに奥様が旦那様に書いた手紙を定期の私の報告書とともにお送りしましたが」
「え?今なんて?」
執事の言葉に私の思考が一瞬止まった。
「奥様が倒れられたことも記憶を失くされたこともご報告させていただいております。お仕事ですのですぐにはお帰りいただけないことは承知しておりますが、旦那様のお留守の間にこの屋敷であったことはご報告する義務がございます」
「じゃなくて、手紙……私は手紙なんて書いていませ」
言いかけてはっと気づく。
手紙は書いた。フォルトナー先生に宿題だと言われて何通も。
「ま、まさか……フォルトナー先生……私の手紙って先生から」
「はい。先生を通じてお預かりしておりますよ。昨日までの分は先ほどの早馬に託しました」
私の顔から血の気が一気に引いた。