政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
第九章
邸に戻り、私は付いてくるマリアンナたちを断って暫く一人にして欲しいと言って部屋に戻った。
寝台に身を預け、頭の中でルイスレーン様に話す事柄を頭で整理する。
今日彼が私を誘ったのも私の様子を観察するためだったのかもしれない。
『クリスティアーヌ』としての振るまい方など知らない私の行動は、一から十まで『愛理』だ。不審がられても仕方がない。
もうすっかり日が落ち、部屋の中は薄闇に包まれている。
周りの様子をぼんやりと見るとはなしに眺めていると、遠慮がちに扉を叩いて「クリスティアーヌ様」と呼ぶマリアンナの声がした。
「どうぞ」
着替えの手伝いに来たのだろう。
むくりと上半身だけ起き上がって返事をすると、魔石の灯りを持ってマリアンナとリリアンが入ってきた。
「あれ、マディソンは?」
一昨日から痣のこともあり、手伝いはマディソンだけにしていた。
「マディソンは実家の母親の具合がよくないと連絡が入りまして、休みを取らせました。このリリアンがその間、お手伝いをしますが、不慣れなので私が指導がてら入ります」
「私なら一人でも………」
「いえ、そう言うわけにはまいりません」
やんわり断ろうとしてマリアンナに先に断られた。
「リリアンもそろそろ色々と経験を積む必要がありますから、リリアン、夕食用のドレスを出してきて」
「はい」
着替えということになると痣を見られるのは確実。マディソンだけなら口止めも出来たが、マリアンナとリリアン、二人もとなると誤魔化せない。
「さあ、クリスティアーヌ様、寝台から降りてください。それともお加減でもお悪いのですか?」
「……大丈夫よ。それよりマリアンナ……今夜彼にあのことを話すわ」
リリアンに聞こえないようにマリアンナに告げる。
「お側にいた方がよろしいですか?」
マリアンナの思いやりに静かに首を振る。
「それだと彼に不公平だわ。それに、当主は彼なんだから、あなたにも立場があるでしょう?」
「わかりました。ですが、ご用があればいつでもお呼びください」
「ありがとう」
「さあ、お召し替えを」
リリアンが持ってきたドレスを見てマリアンナが私を寝台から立たせる。
仕方なくのろのろと立ち上がり、着ていた服を脱いだ。
「奥様……」
案の定彼女たちは私の左腕にある痣に気が付いた。
それは黒っぽいものから黄緑色になっている。痣の範囲も少し小さくなってきているので、幾日か経てば黄色になって消え失せるのことはわかっていたが、今が一番ひどく見える。
「マディソンに口止めしていたのは私なの……痛くはないし、騒がないで」
さっと腕を撫で下ろし何でもないからと笑う。
「どうやってか、お伺いしても?まさか、旦那様では?」
険しい顔つきでマリアンナが訊ねる。
「違うわ!それは絶対違うから……ぶつけただけよ」
マリアンナが痣が彼のせいだと勘違いしたので、慌てて否定した。
「ぶつけた……」
明らかに納得はしていない。マディソンも納得はしなかっただろうが、それ以上何も言わなかったが、マリアンナはそうはいかなかった。
「旦那様のせいでないなら、誰が……場合によっては由々しき問題です。侯爵夫人にこのような怪我を負わせるなど……」
「あの、だからぶつけ……」
「こんなに手形がくっきり付いているのにですか?」
「マリアンナ……大袈裟にはしたくないの」
「誰がクリスティアーヌ様にこのような…侯爵夫人と知ってのことなら、大変なことですよ。旦那様が知らなかったではすみません。このことに関してはきちんと報告させていただきます」
私に仕えてくれてはいるが、彼女の雇い主はルイスレーン様だ。彼女の立場なら当然のことだ。
「わかったわ。私からお話しします」
すぐに言わなかったのは私が悪い。私はいくら怒られても仕方ない。せめて黙っていてとお願いしたマディソンに処罰が下らないように懇願するだけだ。
寝台に身を預け、頭の中でルイスレーン様に話す事柄を頭で整理する。
今日彼が私を誘ったのも私の様子を観察するためだったのかもしれない。
『クリスティアーヌ』としての振るまい方など知らない私の行動は、一から十まで『愛理』だ。不審がられても仕方がない。
もうすっかり日が落ち、部屋の中は薄闇に包まれている。
周りの様子をぼんやりと見るとはなしに眺めていると、遠慮がちに扉を叩いて「クリスティアーヌ様」と呼ぶマリアンナの声がした。
「どうぞ」
着替えの手伝いに来たのだろう。
むくりと上半身だけ起き上がって返事をすると、魔石の灯りを持ってマリアンナとリリアンが入ってきた。
「あれ、マディソンは?」
一昨日から痣のこともあり、手伝いはマディソンだけにしていた。
「マディソンは実家の母親の具合がよくないと連絡が入りまして、休みを取らせました。このリリアンがその間、お手伝いをしますが、不慣れなので私が指導がてら入ります」
「私なら一人でも………」
「いえ、そう言うわけにはまいりません」
やんわり断ろうとしてマリアンナに先に断られた。
「リリアンもそろそろ色々と経験を積む必要がありますから、リリアン、夕食用のドレスを出してきて」
「はい」
着替えということになると痣を見られるのは確実。マディソンだけなら口止めも出来たが、マリアンナとリリアン、二人もとなると誤魔化せない。
「さあ、クリスティアーヌ様、寝台から降りてください。それともお加減でもお悪いのですか?」
「……大丈夫よ。それよりマリアンナ……今夜彼にあのことを話すわ」
リリアンに聞こえないようにマリアンナに告げる。
「お側にいた方がよろしいですか?」
マリアンナの思いやりに静かに首を振る。
「それだと彼に不公平だわ。それに、当主は彼なんだから、あなたにも立場があるでしょう?」
「わかりました。ですが、ご用があればいつでもお呼びください」
「ありがとう」
「さあ、お召し替えを」
リリアンが持ってきたドレスを見てマリアンナが私を寝台から立たせる。
仕方なくのろのろと立ち上がり、着ていた服を脱いだ。
「奥様……」
案の定彼女たちは私の左腕にある痣に気が付いた。
それは黒っぽいものから黄緑色になっている。痣の範囲も少し小さくなってきているので、幾日か経てば黄色になって消え失せるのことはわかっていたが、今が一番ひどく見える。
「マディソンに口止めしていたのは私なの……痛くはないし、騒がないで」
さっと腕を撫で下ろし何でもないからと笑う。
「どうやってか、お伺いしても?まさか、旦那様では?」
険しい顔つきでマリアンナが訊ねる。
「違うわ!それは絶対違うから……ぶつけただけよ」
マリアンナが痣が彼のせいだと勘違いしたので、慌てて否定した。
「ぶつけた……」
明らかに納得はしていない。マディソンも納得はしなかっただろうが、それ以上何も言わなかったが、マリアンナはそうはいかなかった。
「旦那様のせいでないなら、誰が……場合によっては由々しき問題です。侯爵夫人にこのような怪我を負わせるなど……」
「あの、だからぶつけ……」
「こんなに手形がくっきり付いているのにですか?」
「マリアンナ……大袈裟にはしたくないの」
「誰がクリスティアーヌ様にこのような…侯爵夫人と知ってのことなら、大変なことですよ。旦那様が知らなかったではすみません。このことに関してはきちんと報告させていただきます」
私に仕えてくれてはいるが、彼女の雇い主はルイスレーン様だ。彼女の立場なら当然のことだ。
「わかったわ。私からお話しします」
すぐに言わなかったのは私が悪い。私はいくら怒られても仕方ない。せめて黙っていてとお願いしたマディソンに処罰が下らないように懇願するだけだ。