政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
「お父様……厳しかったと伺いました」
「侯爵家の後取りだから、今思えば当たり前のことなのだし、あれが父の愛情なのだと今ならわかるが、小さい私はどうしてなのだと反発していた。母や他の兄弟がいればまた違ったのだろうが」
父親に甘えられず周りは他人ばかり……甘やかしてくれる筈の母もいなかった。そんな彼の子どもの頃を想像し、診療所の子どもたちと比べる。思い切り遊んで、時には喧嘩もして、自分の存在を否定すること無く受け入れてくれる人がいる。そんな安心感が彼にはなかったのだとしたら……。
「私も……アイリも同じです。母が亡くなって父は仕事ばかりで殆ど家にいなくて、家は子守りと家政婦に任せて……大きくなったら家庭教師をつけられ、門限は厳しくて自由がなかった。周りの友達は自分よりずっと恵まれていると恨めしく思うだけで……ずっと父が決めた通りの人生を歩いてきました。今思えば、私も反発すれば良かった……自分の意見をもっとはっきり言って、我が儘も言って……そうすればもっと違う最後を迎えられたかも」
「あなたと私は境遇が似ているな。同じように母を早くに亡くし、厳しい父のもとに育って……だが私は士官学校へ行って父と離れられたことで、客観的に見ることができた。あれも父の愛情なのだとね。自分が苦労した分、人の気持ちを思い謀って優しくできる人もいる。今のあなたのように……」
「そんな……他人の顔色ばかりうかがっているだけです……そんな自分を変えたいとは思いますが……」
「成りたい自分になればいい……あなたが望むなら……だが今は……私の妻になってくれると嬉しい」
「もうとっくに妻ですが」
「それは法の上での話だ。意味はわかっているのだろう?だが、今夜はもう遅い……疲れたろうから休みなさい」
昼間出掛けて、彼に自分のことについて打ち明けた。痣のことも伝えた。確かに今日はこれ以上のことはもうお腹いっぱいだった。
「これまで待ったんだ。後一晩くらい待てるよ。明日の朝早く、あなたの護衛を頼んだ者に来てもらうようになっている」
「護衛……ですか。やはり私には分不相応な気が……」
「これは絶対に譲れない。護衛の一人は私の士官学校の剣術の講師だ。他の二人も若いが優秀だし、女性もいる。あなたが今後侯爵夫人として生活するなら大事なことだ」
「女性も?」
「そうだ。もし会って気に入らなければ人を変えてもいい」
「そんな権限は、ルイスレーン様が選んで下さったのならそれを信用します」
「ルイスレーンだ。様は必要ない。そちらも慣れてもらいたいものだ」
「すいません……」
服を戻し二人で書斎を出て二階へ向かう。
途中でダレクとマリアンナが立っていて、寄り添って歩く私たちを見て安心したように頷いた。
「心配をかけた」
「滅相もございません」
彼が二人に言うと二人は恐縮して首を振る。
「マディソンには咎めはなしだ。戻ったらそう伝えなさい」
「は、はい。ありがとうございます」
マリアンナが深々とお辞儀をして、ダレクが嬉しそうに頷いた。
「侯爵家の後取りだから、今思えば当たり前のことなのだし、あれが父の愛情なのだと今ならわかるが、小さい私はどうしてなのだと反発していた。母や他の兄弟がいればまた違ったのだろうが」
父親に甘えられず周りは他人ばかり……甘やかしてくれる筈の母もいなかった。そんな彼の子どもの頃を想像し、診療所の子どもたちと比べる。思い切り遊んで、時には喧嘩もして、自分の存在を否定すること無く受け入れてくれる人がいる。そんな安心感が彼にはなかったのだとしたら……。
「私も……アイリも同じです。母が亡くなって父は仕事ばかりで殆ど家にいなくて、家は子守りと家政婦に任せて……大きくなったら家庭教師をつけられ、門限は厳しくて自由がなかった。周りの友達は自分よりずっと恵まれていると恨めしく思うだけで……ずっと父が決めた通りの人生を歩いてきました。今思えば、私も反発すれば良かった……自分の意見をもっとはっきり言って、我が儘も言って……そうすればもっと違う最後を迎えられたかも」
「あなたと私は境遇が似ているな。同じように母を早くに亡くし、厳しい父のもとに育って……だが私は士官学校へ行って父と離れられたことで、客観的に見ることができた。あれも父の愛情なのだとね。自分が苦労した分、人の気持ちを思い謀って優しくできる人もいる。今のあなたのように……」
「そんな……他人の顔色ばかりうかがっているだけです……そんな自分を変えたいとは思いますが……」
「成りたい自分になればいい……あなたが望むなら……だが今は……私の妻になってくれると嬉しい」
「もうとっくに妻ですが」
「それは法の上での話だ。意味はわかっているのだろう?だが、今夜はもう遅い……疲れたろうから休みなさい」
昼間出掛けて、彼に自分のことについて打ち明けた。痣のことも伝えた。確かに今日はこれ以上のことはもうお腹いっぱいだった。
「これまで待ったんだ。後一晩くらい待てるよ。明日の朝早く、あなたの護衛を頼んだ者に来てもらうようになっている」
「護衛……ですか。やはり私には分不相応な気が……」
「これは絶対に譲れない。護衛の一人は私の士官学校の剣術の講師だ。他の二人も若いが優秀だし、女性もいる。あなたが今後侯爵夫人として生活するなら大事なことだ」
「女性も?」
「そうだ。もし会って気に入らなければ人を変えてもいい」
「そんな権限は、ルイスレーン様が選んで下さったのならそれを信用します」
「ルイスレーンだ。様は必要ない。そちらも慣れてもらいたいものだ」
「すいません……」
服を戻し二人で書斎を出て二階へ向かう。
途中でダレクとマリアンナが立っていて、寄り添って歩く私たちを見て安心したように頷いた。
「心配をかけた」
「滅相もございません」
彼が二人に言うと二人は恐縮して首を振る。
「マディソンには咎めはなしだ。戻ったらそう伝えなさい」
「は、はい。ありがとうございます」
マリアンナが深々とお辞儀をして、ダレクが嬉しそうに頷いた。