政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
ギオーヴさんたちに護衛されての初めての外出。今日はギオーヴさんとナタリーさんで護衛をしてくれる。
昨日は結局一日何も出来なかった。ルイスレーンの塗ってくれた薬のお陰であそこの痛みは無くなったが、体のあちこちに筋肉痛を覚えて普段しないお昼寝までしてしまった。
ルイスレーンの方は全く体力的に問題ないと見えて、朝早く軍の訓練場に出かけ仕事をこなして夕方まで帰ってこなかった。
夕食を一緒に取り、少し書斎で侯爵家の仕事を済ませた後は、また二人で抱き合った。ただし次の日のの外出のこともあって一回だけ。
彼から「様」呼びを改めるように言われ、皆のまえでは旦那様、二人の時はルイスレーンで行こうと考えたのだが、なかなか慣れなくて三回に一回は「様」をいいかけてしまう。
ルイスレーン様を見送ってから三人で出掛けた。
侯爵邸にあるいくつかの馬車の内、一番目立たないもので出掛けた。
出来るだけ護衛らしくない服装で来て欲しいとお願いしていたら、麻のシャツと革のベスト、同じく麻のズボンを履いて、見た感じは農夫か職人風で来てくれた。ナタリーさんも街の娘風の素朴なワンピース姿で来てくれた。
護衛と聞くと厳つく聞こえるが、付き添いだと言えば拒絶する人はいなかった。
中にはギオーヴさんと同年代でその世代なりの思い出話で盛り上がったりして、一緒にお茶を楽しんだ。ナタリーさんも最初は戸惑っていたが、訪問した先には彼女や私と同年代の娘さんもいて、最後には馴染んでいた。
今日の差し入れは型なしで作る焼きドーナツ。野菜を入れたり、紅茶を入れたりしてあっさり仕上げていた。
「こんなお供ならいつでもお呼びください」
ギオーヴさんが帰りがけに言う。
すっかり気楽にしているが、訪問した家の周囲を探ったり、歩く道すがら警戒してくれているのはわかっていた。
「次は明日と四日後で?」
「お願いします」
明日はニコラス先生の所に行くことにしていた。四日後はカレンデュラ侯爵夫人との茶会だった。
「明日はトレヴィスとパシスで伺います」
ニコラス先生の診療所は午前中が特に忙しい。
そのため訪問は午後になってからだった。
「あれ、クリッシーじゃないか、暫く休むと聞いていたけど、どうしたの?」
診療所の方の扉から入ると、看護士のモイラが私に気がついて声をかけてきた。
彼女が私をクリッシーと呼んだのを二人は耳にしていた筈だが、なぜそう呼ぶかを疑問に思っていても顔には出していない。そこら辺はプロなのだろう。
「ちょっと先生に相談が……いらっしゃいますか?」
「診察は終わったんだけどね。今お客さんが来ていて」
「そうなんですか……」
すぐに会えないとわかり残念な顔をすると、モイラはちょっと待っててねと行って様子を見に行ってくれた。
「あの、ここの方たちの子どもさんたちを預かる施設が隣にあって、そのお手伝いをしていたの。だからここの人たちは顔見知り。クリスティアーヌって名前も子どもたちは言いにくいから、クリッシーって呼ばれているの」
「さようですか……詮索しないのが護衛の鉄則ですが、少し……かなり驚きました」
「ごめんなさい。先に言っておけばよかったですね」
「私たちに気遣いは不要です。興味はありますが、護衛が私の任務ですから」
モイラを待っている間も知り合いが通る度に声を掛けてきて、その都度簡単に挨拶を交わした。
「お待たせ」
モイラが戻って来て、先生からの伝言を伝えてくれた。
「今来ているお客さんが、保育所のことで興味があって、話を聞きたいそうなの。もし良かったら案内してもらえないかって先生が……クリッシーの用件はその後でもっておっしゃっているんだけど」
「私が……?」
「ええ、だってあなたの方が詳しいからって。先生の部屋にいらっしゃるみたいだから、行ってもらえる?」
「それは……構わないけど。少し時間がかかりますがいいですか?」
すぐには終わりそうにないので、待たせてしまうことになると二人に相談する。
「私たちは構いません。どこかで時間を潰してきます。二時間程で戻ってきますので、用が済んだら私が来るまでお待ちいただけますか?」
「そうしてもらえると助かります」
ここにいる間は安全と思ってくれたのか、彼らが後でまた来てくれると行ったので、先生の部屋へ向かった。
モイラは彼らが誰か気になったみたいだが、仕事があったのでまたね。と慌てて去って行った。
「失礼します。クリッシーです」
「ああ、来たね。入ってくれ」
中から先生の声がして入る。
「用があって来てくれたのに、悪いな」
「いえ、保育所の見学と聞きましたが」
「そうなんだ。こちらのお客さんが保育所に興味を持たれて、資金を出したいとおっしゃって……」
先生が来客の方を見る。
「先ほど話した者です。今は事情があって休みを取っていますが、保育所の始まりから手伝ってくれています。クリッシー、こちらは……」
「ルーティアス・ニールセンと言います」
こちらを背にして座っていた人物が立ち上がってこちらを向いた。
昨日は結局一日何も出来なかった。ルイスレーンの塗ってくれた薬のお陰であそこの痛みは無くなったが、体のあちこちに筋肉痛を覚えて普段しないお昼寝までしてしまった。
ルイスレーンの方は全く体力的に問題ないと見えて、朝早く軍の訓練場に出かけ仕事をこなして夕方まで帰ってこなかった。
夕食を一緒に取り、少し書斎で侯爵家の仕事を済ませた後は、また二人で抱き合った。ただし次の日のの外出のこともあって一回だけ。
彼から「様」呼びを改めるように言われ、皆のまえでは旦那様、二人の時はルイスレーンで行こうと考えたのだが、なかなか慣れなくて三回に一回は「様」をいいかけてしまう。
ルイスレーン様を見送ってから三人で出掛けた。
侯爵邸にあるいくつかの馬車の内、一番目立たないもので出掛けた。
出来るだけ護衛らしくない服装で来て欲しいとお願いしていたら、麻のシャツと革のベスト、同じく麻のズボンを履いて、見た感じは農夫か職人風で来てくれた。ナタリーさんも街の娘風の素朴なワンピース姿で来てくれた。
護衛と聞くと厳つく聞こえるが、付き添いだと言えば拒絶する人はいなかった。
中にはギオーヴさんと同年代でその世代なりの思い出話で盛り上がったりして、一緒にお茶を楽しんだ。ナタリーさんも最初は戸惑っていたが、訪問した先には彼女や私と同年代の娘さんもいて、最後には馴染んでいた。
今日の差し入れは型なしで作る焼きドーナツ。野菜を入れたり、紅茶を入れたりしてあっさり仕上げていた。
「こんなお供ならいつでもお呼びください」
ギオーヴさんが帰りがけに言う。
すっかり気楽にしているが、訪問した家の周囲を探ったり、歩く道すがら警戒してくれているのはわかっていた。
「次は明日と四日後で?」
「お願いします」
明日はニコラス先生の所に行くことにしていた。四日後はカレンデュラ侯爵夫人との茶会だった。
「明日はトレヴィスとパシスで伺います」
ニコラス先生の診療所は午前中が特に忙しい。
そのため訪問は午後になってからだった。
「あれ、クリッシーじゃないか、暫く休むと聞いていたけど、どうしたの?」
診療所の方の扉から入ると、看護士のモイラが私に気がついて声をかけてきた。
彼女が私をクリッシーと呼んだのを二人は耳にしていた筈だが、なぜそう呼ぶかを疑問に思っていても顔には出していない。そこら辺はプロなのだろう。
「ちょっと先生に相談が……いらっしゃいますか?」
「診察は終わったんだけどね。今お客さんが来ていて」
「そうなんですか……」
すぐに会えないとわかり残念な顔をすると、モイラはちょっと待っててねと行って様子を見に行ってくれた。
「あの、ここの方たちの子どもさんたちを預かる施設が隣にあって、そのお手伝いをしていたの。だからここの人たちは顔見知り。クリスティアーヌって名前も子どもたちは言いにくいから、クリッシーって呼ばれているの」
「さようですか……詮索しないのが護衛の鉄則ですが、少し……かなり驚きました」
「ごめんなさい。先に言っておけばよかったですね」
「私たちに気遣いは不要です。興味はありますが、護衛が私の任務ですから」
モイラを待っている間も知り合いが通る度に声を掛けてきて、その都度簡単に挨拶を交わした。
「お待たせ」
モイラが戻って来て、先生からの伝言を伝えてくれた。
「今来ているお客さんが、保育所のことで興味があって、話を聞きたいそうなの。もし良かったら案内してもらえないかって先生が……クリッシーの用件はその後でもっておっしゃっているんだけど」
「私が……?」
「ええ、だってあなたの方が詳しいからって。先生の部屋にいらっしゃるみたいだから、行ってもらえる?」
「それは……構わないけど。少し時間がかかりますがいいですか?」
すぐには終わりそうにないので、待たせてしまうことになると二人に相談する。
「私たちは構いません。どこかで時間を潰してきます。二時間程で戻ってきますので、用が済んだら私が来るまでお待ちいただけますか?」
「そうしてもらえると助かります」
ここにいる間は安全と思ってくれたのか、彼らが後でまた来てくれると行ったので、先生の部屋へ向かった。
モイラは彼らが誰か気になったみたいだが、仕事があったのでまたね。と慌てて去って行った。
「失礼します。クリッシーです」
「ああ、来たね。入ってくれ」
中から先生の声がして入る。
「用があって来てくれたのに、悪いな」
「いえ、保育所の見学と聞きましたが」
「そうなんだ。こちらのお客さんが保育所に興味を持たれて、資金を出したいとおっしゃって……」
先生が来客の方を見る。
「先ほど話した者です。今は事情があって休みを取っていますが、保育所の始まりから手伝ってくれています。クリッシー、こちらは……」
「ルーティアス・ニールセンと言います」
こちらを背にして座っていた人物が立ち上がってこちらを向いた。