政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
ニコラス先生のお客さんは、ルーティアスさんだった。
「おや、あなたは……」
相変わらずアイリッシュ・ウルフハウンドのような格好の彼も私に気づいたようだ。
「お知り合いですか?」
先生も気づいたようで驚いて訊ねる。
「二度ほど偶然に……ですよね」
「はい……どうしてルーティアスさんが……」
「知人からここのことを聞いて、私も将来子どもが出来たら、同じような施設があったらいいなと……それでいくらか寄付をと考えまして」
「そうでしたか……クリッシー、頼んでいいかな。君が急いでいなければだが……」
「大丈夫です。後で先生に相談があるのでお時間いただけますか?」
「ああ、構わない。案内してくれている間に仕事を済ませておこう。ニールセンさん、彼女でも構いませんか?」
「私は構いません……むしろ願ってもないことです」
彼が先生の方を向いて言った。
「それではこちらへ……」
扉を開けて案内すると、彼は先生に挨拶をして部屋を出てきた。
「小さい子は今からお昼寝なので、全部は見て廻って貰えませんが、それでも大丈夫ですか?」
「お昼寝……そのようなことまで」
「ええ、小さい子は体力がありませんから……あまり寝すぎると夜に寝られなくなりますが、そういう習慣づけをしています」
私の説明に彼はなる程と頷いた。
「どんな風に運営しているかわかれば、全部を見なくても大丈夫です」
「良かった。では行きましょうか」
一旦裏から建物を出る。
静かに保育所として使っている建物の扉を開ける。
「あら、クリッシー」
カミラさんが私が入ってきたことに気づいて近づいてきた。
「どうしたの?もう出て来ていいの?」
「いえ、今日は先生に用があって。それでたまたまこの方が保育所を見学したいとおっしゃって……」
背後にいるルーティアスさんを紹介する。
背が高くて髪が長く、前髪で目がはっきり見えない彼を胡散臭そうに見る。
「彼は魔石を運ぶ仕事をなさっていて、ご寄付を考えていらっしゃるそうです」
「まあ、それはそれは」
それを聞いてカミラさんがころっと態度を変える。
「今はお昼寝の時間ですから、二階は見ていただけませんが、下の階ならどうぞご覧になってください。クリッシー、子どもたちも喜ぶから会って行ってあげて」
「はい。ニールセンさん、こちらへ」
一階の遊戯室に彼を案内する。
「ここは皆が一緒に遊んでいるところで、時には歌を歌ったり踊ったり、絵を描いたり本の読み聞かせをしたりします。さっきも言ったように小さい子がお昼寝をしている時は、大きい子はあまり騒がないで好きなことをしています」
「色々なことをしているんですね」
遊戯室の扉を開けると、子どもたちは絵を描いたり人形遊びをしたり、積み木などで遊んでいた。
「あ、クリッシー!」
「クリッシーだ!」
一人が気づいて、皆が一斉にこちらを見て駆け寄ってきた。
「みんな、良い子にしてた?」
「僕たち良い子にしてたよ!」
「仲良くしてたよ」
「クリッシーがいなくて寂しかったよ」
私を子どもたちが取り囲み、口々に話しかける。
「みんな、今日はお客さんを連れてきたから、大人しくしてね」
私が言うと皆がルーティアスさんに気づき、大きな彼を見て驚いてぽかんと口を開けた。
男の子はそうでもないが、女の子はすごすごと私の後ろに隠れる。
「…………どうしたんですか?」
「あの、子どもって初めて見る男の人は怖いみたいで」
「おじさん、大きいなぁ、僕も早く大きくなりたいんだ。どうしたら大きくなれる?」
一番好奇心の強いアーサーがルーティアスさんの服の裾を引き、訊ねる。
「おじ……えっと……そうだな……」
彼は助けを求めるように私を見るが、私は首を振ってそれを拒んだ。
「将来子どもができた時の練習と思って、付き合ってあげてください」
私の助けが得られないとわかって少しショックを受けていたが、彼は腰を落としてアーサーの目線に合わせる。
「何でも好き嫌い無く食べて、いっぱい遊んで勉強して体を鍛えて……そうすればなりたい自分に成れる。あと、弱い人には優しくする」
「……ぼく、いっぱいご飯食べてるよ。いっぱい遊んでいるし、小さい子たちとも遊んであげるし……勉強は……あまり好きじゃない」
「そうか、ほとんどできているじゃないか。後は勉強だな。覚えたことは君の財産になる。頑張りなさい」
「うん!ありがとう、おじさん」
励まされてアーサーは力強く頷いた。
「はは……おじさんか……君たちから見たらおじさんなんだろうな……」
男性も老けて見えるのは気になるらしい。苦笑いしてアーサーの頭を撫でる。
「じゃあみんなごめんね。この人にまだあちこち見せてあげないといけないから……」
「クリッシー、早く戻ってきてね」
「そうだよ。またご本読んで」
離れがたそうにする子どもたちを後ろ髪を引かれる思いで、ルーティアスさんと共にその場を離れた。
「おや、あなたは……」
相変わらずアイリッシュ・ウルフハウンドのような格好の彼も私に気づいたようだ。
「お知り合いですか?」
先生も気づいたようで驚いて訊ねる。
「二度ほど偶然に……ですよね」
「はい……どうしてルーティアスさんが……」
「知人からここのことを聞いて、私も将来子どもが出来たら、同じような施設があったらいいなと……それでいくらか寄付をと考えまして」
「そうでしたか……クリッシー、頼んでいいかな。君が急いでいなければだが……」
「大丈夫です。後で先生に相談があるのでお時間いただけますか?」
「ああ、構わない。案内してくれている間に仕事を済ませておこう。ニールセンさん、彼女でも構いませんか?」
「私は構いません……むしろ願ってもないことです」
彼が先生の方を向いて言った。
「それではこちらへ……」
扉を開けて案内すると、彼は先生に挨拶をして部屋を出てきた。
「小さい子は今からお昼寝なので、全部は見て廻って貰えませんが、それでも大丈夫ですか?」
「お昼寝……そのようなことまで」
「ええ、小さい子は体力がありませんから……あまり寝すぎると夜に寝られなくなりますが、そういう習慣づけをしています」
私の説明に彼はなる程と頷いた。
「どんな風に運営しているかわかれば、全部を見なくても大丈夫です」
「良かった。では行きましょうか」
一旦裏から建物を出る。
静かに保育所として使っている建物の扉を開ける。
「あら、クリッシー」
カミラさんが私が入ってきたことに気づいて近づいてきた。
「どうしたの?もう出て来ていいの?」
「いえ、今日は先生に用があって。それでたまたまこの方が保育所を見学したいとおっしゃって……」
背後にいるルーティアスさんを紹介する。
背が高くて髪が長く、前髪で目がはっきり見えない彼を胡散臭そうに見る。
「彼は魔石を運ぶ仕事をなさっていて、ご寄付を考えていらっしゃるそうです」
「まあ、それはそれは」
それを聞いてカミラさんがころっと態度を変える。
「今はお昼寝の時間ですから、二階は見ていただけませんが、下の階ならどうぞご覧になってください。クリッシー、子どもたちも喜ぶから会って行ってあげて」
「はい。ニールセンさん、こちらへ」
一階の遊戯室に彼を案内する。
「ここは皆が一緒に遊んでいるところで、時には歌を歌ったり踊ったり、絵を描いたり本の読み聞かせをしたりします。さっきも言ったように小さい子がお昼寝をしている時は、大きい子はあまり騒がないで好きなことをしています」
「色々なことをしているんですね」
遊戯室の扉を開けると、子どもたちは絵を描いたり人形遊びをしたり、積み木などで遊んでいた。
「あ、クリッシー!」
「クリッシーだ!」
一人が気づいて、皆が一斉にこちらを見て駆け寄ってきた。
「みんな、良い子にしてた?」
「僕たち良い子にしてたよ!」
「仲良くしてたよ」
「クリッシーがいなくて寂しかったよ」
私を子どもたちが取り囲み、口々に話しかける。
「みんな、今日はお客さんを連れてきたから、大人しくしてね」
私が言うと皆がルーティアスさんに気づき、大きな彼を見て驚いてぽかんと口を開けた。
男の子はそうでもないが、女の子はすごすごと私の後ろに隠れる。
「…………どうしたんですか?」
「あの、子どもって初めて見る男の人は怖いみたいで」
「おじさん、大きいなぁ、僕も早く大きくなりたいんだ。どうしたら大きくなれる?」
一番好奇心の強いアーサーがルーティアスさんの服の裾を引き、訊ねる。
「おじ……えっと……そうだな……」
彼は助けを求めるように私を見るが、私は首を振ってそれを拒んだ。
「将来子どもができた時の練習と思って、付き合ってあげてください」
私の助けが得られないとわかって少しショックを受けていたが、彼は腰を落としてアーサーの目線に合わせる。
「何でも好き嫌い無く食べて、いっぱい遊んで勉強して体を鍛えて……そうすればなりたい自分に成れる。あと、弱い人には優しくする」
「……ぼく、いっぱいご飯食べてるよ。いっぱい遊んでいるし、小さい子たちとも遊んであげるし……勉強は……あまり好きじゃない」
「そうか、ほとんどできているじゃないか。後は勉強だな。覚えたことは君の財産になる。頑張りなさい」
「うん!ありがとう、おじさん」
励まされてアーサーは力強く頷いた。
「はは……おじさんか……君たちから見たらおじさんなんだろうな……」
男性も老けて見えるのは気になるらしい。苦笑いしてアーサーの頭を撫でる。
「じゃあみんなごめんね。この人にまだあちこち見せてあげないといけないから……」
「クリッシー、早く戻ってきてね」
「そうだよ。またご本読んで」
離れがたそうにする子どもたちを後ろ髪を引かれる思いで、ルーティアスさんと共にその場を離れた。