政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

彼の甘い囁きが耳に木霊する。
彼がそんなことを言う人だとは思わなかった。まるで美の女神の化身かのように表現されるとは思わず全身が真っ赤になる。前世の時でもこんな風に言われている人を見たことがない。ドラマでもない。

口べたのような振りをして、一体どんな顔でそんな美辞麗句を囁くのかと顔を見ようと腰を捻って後悔した。

甘い……蕩けるような甘い眼差しと視線がぶつかる。

斑に混じり合う寒色と暖色の虹彩。唇が濡れているのは私の愛液を舐めたからだと思うと、鼓動が最上段に跳ね上がった。

「どうした?」
「そんな#台詞__せりふ__#……仰る方とは思いませんでした…………」
「思ったままを言ったまでだが……気に入らなかったか?」
「いつからそんな……」

さすがにどんな伊達男でもこんな言い方はしないだろう。

「気に障ったか……今の台詞の何が間違っている?女性の容姿を誉めたことがなくて……」

真顔で返され戸惑う。女性と見れば老いも若きも誉めるような男性なら嘘っぽく聞こえるだろうが、相手はルイスレーンである。こんなことを言えば女性なら誰でも喜ぶだろうとか、誤魔化して取り繕うことが得意な人でないとは思うが、他の女性と話をしているところを見たことが殆どないので、比べることもできない。

「いえ……少し恥ずかしいですが……嫌とかではなく……誰にも言われたことがなくて」

「嫌ではなかったなら良かった……私にこんなことを言わせるのはあなただけだ。もちろん、言うのも私だけにして貰いたいものだ」

あまーい。砂糖の塊を口に入れたような甘さで、何か変なものを食べたのではないかと疑ってしまう。

「アイリ……」

言葉を失った私の後頭部を押さえ、額を擦り付けてくる。

「続けてもいいか?」

まだ勃起した下半身に彼が私の手を持っていく。黙って頷くと彼が私を横たわらせて、上着の前をはだけ、スラックスも下ろす。屹立した彼のものが目の前に飛び出てきた。

上着を脱いだ彼の上半身を見て、綺麗なのは彼の方だと思う。適度についた筋肉に所々傷痕があるのは剣のせいかも知れない。肩に等間隔に丸く並んだ傷が見えて、それが数日前に私が付けたものだと気づいて、そこに手を触れた。

「ごめんなさい……」

謝ると彼はキスで答えた。

「謝らないで……いずれ消える。それより、まだ痛いか?」

さっき指を入れていた部分に手の平を触れられる。まだ片手には足りない回数では十分とは言えないのだろうか。

「ごめんなさい」
「なぜ謝る?そこはあなたが謝ることでは」
「でも、私が上手じゃないから……フガッ」

言い掛けたところで唇で口を塞がれた。

「んんん…」

噛まれるような口づけをしながら、下着が取り払われて彼の先端が擦り付けられる。

「自分を出来損ないのように言うのはやめろ。私はあなたの中にいるだけで満足だ。上手い下手の問題ではない」

先端が当てられているだけで、自分の中がひくついてもっと欲しいと疼く。
なのに彼は入り口の辺りで留まりそれ以上進もうとしない。もぞもぞと自分から腰を揺らして迎え入れようとすると彼が腰を引く。

「ううう……」

欲しいものが貰えなくて思わず唸る。これは私に対する彼なりの罰だけど彼だって私を欲しいと思っているとわかるから甘えられる。前世では絶対あり得なかったことだ。でもこの先をどうしたらいいのかわからない。

彼の顔を見るとじっと何かを待っている。彼だって辛そうだ。

「多分まだ…少し痛いと思います…でも」

正直に意見を言って両腕を彼に伸ばし広げる。

「欲しいんです……ルイスレーンが……ください」

「私も……アイリが欲しい」

蜜口の入り口に再び彼の先端が宛がわれる。さっきお預けをされた時にすでに乾き掛けていたところが再び期待に濡れてくる。今度こそ最初の部分が差し込まれると、更に奥へと誘うようにひくつく。

「そんなに慌てるな……持っていかれる。ゆっくり……」

彼の大きさに対しまだ狭い私のそこが、彼の形に合わせて押し開かれる。私を気遣ってゆっくり進もうとするのを、私が急き立てる。

「どうしていいか……」

ゆっくりと言われても勝手に反応するので何をどうしていいのかわからない。

「すまない……私もどうしていいか、女性の体のことは……わからない」

半分まで進み収縮する膣の圧が締め付けるのをこらえる彼の額に汗が浮き出る。

「気持ちいい……君の中は……熱くて」

彼の方こそ、熱くて脈打っているのがわかる。最後は私が腰を動かしてぐっと押し付け全てを飲み込む。先端が気持ちいいところにぶつかり、全身を快感が突き抜けた。

「アイリ……君の中に入っただけで……ああ…」

極上に色気のある掠れ声で囁かれると、またもやぎゅうっと彼を締め付けてしまい、切ない声が彼から漏れた。

「だめだ……そんなに締めたら」
「ルイス……レーンが……そんなこと言うから……」

自分の上にいる彼が目を瞑りはあっと息を吐ききると、徐に腰を動かし始めた。
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