政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
部屋の中には大勢の男の人たちがひしめき合っていた。約三十人程の男達は年も体格もバラバラたが、全員仮面を付けているので何だか怪しい雰囲気だ。

「それではただいまから始めます。皆様事前に商品の検分はお済みかと思います。順番に女達の名前を呼びますので、これはと思う女の価格をこの袋に入れてください。こちらで確認して一番高い値を提示された方に今夜ひと晩お相手させていただきます。………そちらの方、何か?」

赤い仮面の男が男達の人だかりの向こうから、一人手を挙げる男を見た。他の客達もそちらを振り返る。

「札をそちらが確認するのですか?公開ではなく?」

人混みを掻き分けて、一人の男性が前に進み出てきた。

黒とグレイの混じった長髪を下ろし、狐のようなお面を付け、顎ひげを生やした背の高い人だった。低くよく通る声のその人物を何故か見たことがあるような気がした。

「そのように説明いたしましたが」
「不正はないのでしょうか?そちらが事前に口約束で宛がうつもりの人物に有利に持っていくと言ったような」
「し、失礼な、そんなことをするわけがない。こちらは信用でやっているのだ」

「心許ない保証ですね。信用……そのやり方では納得できかねます。皆さんもそう思いませんか?」

男が腕を広げて大袈裟とも言える仕草で全員に問いかける。

「私達も慈善事業ではない。高い金を払うのだから、そちらも公明正大なところを見せてください」

「それもそうだな……私は今まで一度も落としたことがない。一人が二人も落としたのを見たぞ」
「私だって三回目でやっとだ」

男の言葉に半分程の男達が騒ぎ出した。

「皆さん落ち着いてください。私どもはそのようなことは……」
「皆さんが納得できるように、今回は入札ではなく、競りで行ってはどうですか?」

雲行きが怪しくなってきた所に狐面の男性が提案を持ちかけた。

「競り?」
「そうです。順番に競りで決めるんです。そうすれば誰がいくら出したかわかりますし、どうしても抱きたい女なら一度の入札で諦めなくて済む」
「そうだ、そうしろ」
「競りだ」

一人が言い出すとその場の全員が「競り」「競り」と連呼し出した。

「み、皆さん落ち着いてください……方法を変えるには私の一存では……」

「何の騒ぎだ」

「だ、旦那様…」

赤い仮面の男が掛けよってそこへ現れた主……モーシャスに耳打ちする。カラスのような仮面を被ったモーシャスが事情を聞くと、一瞬額に手を当ててから全員に向き直った。

「わかりました、皆さんのご希望どおり今回は競りで行いましょう」

「おおおおお」

全員から歓声が上がり、狐面の男性も納得したのか頷いて、またもや後ろに下がった。

「私は反対だ、遣り方を急に変えるなんてもってのほかだ」

さっきの小太りの男が抗議したが、周りから黙れ、引っ込めと罵声が上がり、すぐに口をつぐんだ。

「それでは最初はシルバーから。彼女はご覧のとおり目が見えませんが、その分他の感覚は鋭いですよ。千ダルから始めましょう」

赤い仮面の男がケイトリンを一番前に引っ張り出した。

「千五百」
「二千だ」
「二千五百」

口々に男達が声をかけ、最終五千でケイトリンの今夜の相手が決まった。

次にライラ、リア、エルサ、ノイエ、マイアと次々に五千から八千で決まっていった。

落とした男は部屋の鍵を受け取り、首輪に付けた鎖を引っ張り彼女たちと共に部屋を出ていく。
目当ての女を落とせなかった者は次に賭けるか、諦めて帰るかで別れていき、最後私の番になった時は、あの小太りの不気味な男と、狐面の男を入れて八人程になっていた。

「最後のゴールドは今回が初めてです。生娘ではありませんが、その分開発されておりますので、十分にご満足頂けると思います」

開発……ルイスレーンによって開かれた体をそんな風に言われてショックだった。

「へへへ、待ちくたびれたぞ。早く始めろ」

ルイスレーン以外には指一本触れられたくはなかったが、誰になったとしても、この男だけは嫌だと思った。

「では三千から始めましょう」

他の皆が五千ダルから上で競り落とされていたので、最初の金額も次第に上がっていた。

「三千五百」
「五千だ」

誰かが三千五百から始め、小太りの男が五千と叫んだ。
その時点で二人程が舌打ちして肩を竦めて引き下がった。

「五千ですが、他には?」

モーシャスが周囲を煽る。

「もういいだろ?五千で私に……」

小太りの男が自分に決まったと上機嫌で鍵を受け取ろうと手を伸ばしたとき、これまで一度も競りに加わらなかった狐面の男性が声を発した。

「一万」

周囲がざわついた。
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