政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
最初に到着したのはカレンデゥラ侯爵夫妻だった。
そもそも私たちの招待客で馬車に乗るのは彼らとマイセラ侯爵くらいで、後は全員徒歩で来られる。
「ようこそ、侯爵様、夫人」
「こんにちは、お招きありがとう。晴天に恵まれて神の祝福だな」
「まあ、愛らしい……とても綺麗ね」
「ありがとうございます。ささやかな宴ですが、楽しんでください。私の部下や子どもも大勢来ますので少し騒がしいかもしれませんが」
筆頭侯爵家の二家を招待するにあたって、自分たちの披露宴についての意向は伝えてあった。彼ら二家以外は殆どが身分の低い貴族か平民のため、彼らが気に入らなければ断られても致し方ないと思っていた。
それでも彼らは招待を受け入れてくれた。
自分たちも彼らも私たちを祝福したくて来るのだから、そこに身分や立場は関係ないのだと。
「ルイスレーン……」
披露宴の席で、料理や飲み物、ダンスに興じる参列者を眺めながら、傍らに座るルイスレーンの肩に頭を寄せる。
「どうした?アイリ」
彼が優しい声で私の肩をそっと寄せる。
彼は今でも二人の時は私をアイリと呼ぶ。どちらでもいいのだが、皆がクリスティアーヌと呼ぶなら、アイリの名を呼ぶ者が一人くらいいてもいいだろうと言い、時折前世の言葉を聞きたいと言うので、覚えている歌や童話を語る。
「私……今とっても幸せです。こんなにたくさんの人たちが私たちのことを思って、共に祝ってくれるなんて……夢にも思わなかった」
「そうだね……私も……君と結婚しなければ、こんな幸せは味わえなかった」
「まさか、国王陛下まで来られるとは思わなかったけど……」
披露宴が始まる直前、突然陛下がゲイル・マクミラン一人を護衛にしてやって来た。
諦めた様子のマクミランさんを尻目に、陛下は披露宴を楽しんでいる。
陛下のご尊顔を知るのは限られた人物だけなので、大きな混乱はなかったが、このことがばれたら殿下たちに大目玉ではないだろうか。
「私たちの縁を繋いでくれた人だ。誰よりこの場に相応しい方だ」
「そうね……」
二人で笑い、自然と唇が重なる。
政略結婚で始まった結婚だけど、お陰で彼と出会えた。
たくさんの出会いがあって、今はとても満ち足りている。
何よりも、この目の前にいる素敵な人が、私にだけ見せてくれる愛情が嬉しくてたまらない。
「愛しているよ」
「私も……愛しています」
緑と橙が一層深い色になる。
こうして大事な人ができて、私の中にある愛情は薄まるどころか、益々大きく膨れ上がる。
「今夜も覚悟して……君が意識を失うまで愛したい」
彼の瞳に欲望の色が見えて、私の胸が高まる。
「……だめよ……あまり激しくしないで……」
「どうして?このところ今日の準備で忙しくて君は疲れて早く寝ていた。この前、保育所の工事の様子を見に行ってから、ずっとだ。それとも私とは嫌なのか?愛してくれていると、今も言ったのに……もしかしてどこか具合でも悪いのか」
鉄面皮と言われていたルイスレーンがこんな風に拗ねるなんて、誰が想像しただろう。
先日の公開模擬試合でも、彼が私に勝利を捧げて優しい笑顔を見せたことで、周りの人たちが幻でも見ているのかと目を疑ったくらいだ。
「あなたを愛している気持ちは変わらないわ。でも、私にはあなたと同じくらい大切なものが出来たの」
「私と同じくらい大切なもの?それはなんだ?」
ルイスレーンが眉根を寄せて訊ねる。
「それは………」
私がそっと彼の耳元で囁くと、彼の険しい顔が一瞬で綻び、息が出来なくなる程きつく抱き締められた。
空はどこまでも青く、人々の楽しそうな笑い声や音楽が聞こえるなか、私は愛する人を抱き締め返す。
私がこの人に捕まったのか、私が捕まえたのか、政略結婚で出会ったけれど、今ではこの人が最愛の人。不安に思っていたあの頃の私に伝えたい。
この人となら大丈夫。
これからもっともっと幸せになるのだから。
そもそも私たちの招待客で馬車に乗るのは彼らとマイセラ侯爵くらいで、後は全員徒歩で来られる。
「ようこそ、侯爵様、夫人」
「こんにちは、お招きありがとう。晴天に恵まれて神の祝福だな」
「まあ、愛らしい……とても綺麗ね」
「ありがとうございます。ささやかな宴ですが、楽しんでください。私の部下や子どもも大勢来ますので少し騒がしいかもしれませんが」
筆頭侯爵家の二家を招待するにあたって、自分たちの披露宴についての意向は伝えてあった。彼ら二家以外は殆どが身分の低い貴族か平民のため、彼らが気に入らなければ断られても致し方ないと思っていた。
それでも彼らは招待を受け入れてくれた。
自分たちも彼らも私たちを祝福したくて来るのだから、そこに身分や立場は関係ないのだと。
「ルイスレーン……」
披露宴の席で、料理や飲み物、ダンスに興じる参列者を眺めながら、傍らに座るルイスレーンの肩に頭を寄せる。
「どうした?アイリ」
彼が優しい声で私の肩をそっと寄せる。
彼は今でも二人の時は私をアイリと呼ぶ。どちらでもいいのだが、皆がクリスティアーヌと呼ぶなら、アイリの名を呼ぶ者が一人くらいいてもいいだろうと言い、時折前世の言葉を聞きたいと言うので、覚えている歌や童話を語る。
「私……今とっても幸せです。こんなにたくさんの人たちが私たちのことを思って、共に祝ってくれるなんて……夢にも思わなかった」
「そうだね……私も……君と結婚しなければ、こんな幸せは味わえなかった」
「まさか、国王陛下まで来られるとは思わなかったけど……」
披露宴が始まる直前、突然陛下がゲイル・マクミラン一人を護衛にしてやって来た。
諦めた様子のマクミランさんを尻目に、陛下は披露宴を楽しんでいる。
陛下のご尊顔を知るのは限られた人物だけなので、大きな混乱はなかったが、このことがばれたら殿下たちに大目玉ではないだろうか。
「私たちの縁を繋いでくれた人だ。誰よりこの場に相応しい方だ」
「そうね……」
二人で笑い、自然と唇が重なる。
政略結婚で始まった結婚だけど、お陰で彼と出会えた。
たくさんの出会いがあって、今はとても満ち足りている。
何よりも、この目の前にいる素敵な人が、私にだけ見せてくれる愛情が嬉しくてたまらない。
「愛しているよ」
「私も……愛しています」
緑と橙が一層深い色になる。
こうして大事な人ができて、私の中にある愛情は薄まるどころか、益々大きく膨れ上がる。
「今夜も覚悟して……君が意識を失うまで愛したい」
彼の瞳に欲望の色が見えて、私の胸が高まる。
「……だめよ……あまり激しくしないで……」
「どうして?このところ今日の準備で忙しくて君は疲れて早く寝ていた。この前、保育所の工事の様子を見に行ってから、ずっとだ。それとも私とは嫌なのか?愛してくれていると、今も言ったのに……もしかしてどこか具合でも悪いのか」
鉄面皮と言われていたルイスレーンがこんな風に拗ねるなんて、誰が想像しただろう。
先日の公開模擬試合でも、彼が私に勝利を捧げて優しい笑顔を見せたことで、周りの人たちが幻でも見ているのかと目を疑ったくらいだ。
「あなたを愛している気持ちは変わらないわ。でも、私にはあなたと同じくらい大切なものが出来たの」
「私と同じくらい大切なもの?それはなんだ?」
ルイスレーンが眉根を寄せて訊ねる。
「それは………」
私がそっと彼の耳元で囁くと、彼の険しい顔が一瞬で綻び、息が出来なくなる程きつく抱き締められた。
空はどこまでも青く、人々の楽しそうな笑い声や音楽が聞こえるなか、私は愛する人を抱き締め返す。
私がこの人に捕まったのか、私が捕まえたのか、政略結婚で出会ったけれど、今ではこの人が最愛の人。不安に思っていたあの頃の私に伝えたい。
この人となら大丈夫。
これからもっともっと幸せになるのだから。