政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
「さあ、クリスティアーヌ様、起きてください」
お茶会当日の朝、私はマディソンにたたき起こされた。
「まだ……早い。お茶会は午後……」
「決して早くありません、お仕度に時間がかかるんです。さあ、起きて軽食を召し上がってください」
カーテンを開け放ち部屋に光を入れると、マディソンに差し出されたお茶を飲んだ。
お茶を飲んでひと息つくまもなく、次から次へとメイドさんたちが入ってきた。
そこからマリアンナとマディソンが指示を出してまずはお風呂。香油を垂らした湯船に浸かり髪を洗う。
お風呂から上がると身体中にオイル、顔には保湿性の高い化粧品が塗り込まれる。
髪にもしっかりとオイルを染み込ませ、乾かして艶が出るまでブラッシングされる。
ここまでで二時間半。
それから着付け。
今日のために仕立てた衣装は昼用ということもあり露出は控え目。
鎖骨が見える位まで下げた襟ぐりからふわりとシフォンの生地がはみ出す。
スカート部分は白地に小さな黄色い花柄を散りばめた生地とフリルをあしらったモスグリーンのシルク生地が交互に重ねられている。
春らしい花柄のドレスだった。
髪は緩やかに頭頂部でまとめ、垂らした毛先はカールをつける。
着付けに一時間。髪結いに半時間。化粧に半時間。
四時間半かけてようやく仕度が終わった。
この一ヶ月ニコラス先生のところで毎日働いた時間とほぼ同じ時間を要した。
レースのショールを羽織るといつもの荷馬車ではなく、ちゃんと屋根のついた侯爵家の馬車にマディソンと共に乗り込み王宮に向かった。
王宮までは馬車で一時間かかった。
入り口で警備に招待状を見せると、奥の部屋から侍従らしき人が現れた。
「リンドバルク侯爵夫人、クリスティアーヌ様ですね。ご案内いたします」
丁寧なお辞儀をして身だしなみを整えた中堅クラスの男性だった。
彼の後について王宮に足を踏み入れる。デビューの日に一度来たことがあると思うが、今の私には記憶がないので初めてと同じだ。
広い廊下の右端を歩いていき、ずんずんと奥に進む。
案内人は後ろに目が付いているのか、後ろをみずに常に一定の距離を保ち私の前を行く。
途中ここで勤める人たちなのか何人かとすれ違い、皆が立ち止まって私に軽く会釈してくれる。
その度に会釈を返しそうになるが、私は侯爵夫人なのだから悠然と構えて歩いて行った。
ずんずんと奥へ向かい、どこまで行くのだろうと思っていると入り口の両脇に一人ずつ人が立つ扉の前で止まった。
「リンドバルク侯爵夫人をお連れしました。お取り次ぎを」
ここまで案内してくれた侍従がその内の一人に声をかけると、入り口にいた男性が頷いて部屋の中に入って行った。
「お入りください」
すぐに中から戻ってきて彼がそう言い、片側の扉を開け放ち、案内してくれた侍従の人が私に中に入るよう言った。
「失礼いたします」
言われるままに部屋に入ると、部屋の中央に置かれた豪華な応接セットに座る二人の女性が目に入った。
お茶会の会場かと思ったが、他に人もおらずお茶もない。
自分は一体どこへ案内されたのか。
バタンと扉が閉まると、片方のブルネットの女性が立ち上がった。
「クリスティアーヌ・リンドバルク?」
「は、はい」
名前を呼ばれ返事をしてお辞儀する。
「いきなりこんなところへつれてきてごめんなさい。お茶会の前にあなたとお話したかったの」
何となくだが、目の前の二人が誰なのか予想がついた。
先ほどの入り口の二人は恐らく護衛。王宮内で護衛が護る部屋にいて、私より少し年上の女性たち。
「私は第二皇子の妃。イヴァンジェリンです。そしてこちらが皇太子妃のエレノア様です」
イヴァンジェリン妃に紹介された明るい栗毛のエレノア妃が軽く会釈して微笑んだ。
お茶会当日の朝、私はマディソンにたたき起こされた。
「まだ……早い。お茶会は午後……」
「決して早くありません、お仕度に時間がかかるんです。さあ、起きて軽食を召し上がってください」
カーテンを開け放ち部屋に光を入れると、マディソンに差し出されたお茶を飲んだ。
お茶を飲んでひと息つくまもなく、次から次へとメイドさんたちが入ってきた。
そこからマリアンナとマディソンが指示を出してまずはお風呂。香油を垂らした湯船に浸かり髪を洗う。
お風呂から上がると身体中にオイル、顔には保湿性の高い化粧品が塗り込まれる。
髪にもしっかりとオイルを染み込ませ、乾かして艶が出るまでブラッシングされる。
ここまでで二時間半。
それから着付け。
今日のために仕立てた衣装は昼用ということもあり露出は控え目。
鎖骨が見える位まで下げた襟ぐりからふわりとシフォンの生地がはみ出す。
スカート部分は白地に小さな黄色い花柄を散りばめた生地とフリルをあしらったモスグリーンのシルク生地が交互に重ねられている。
春らしい花柄のドレスだった。
髪は緩やかに頭頂部でまとめ、垂らした毛先はカールをつける。
着付けに一時間。髪結いに半時間。化粧に半時間。
四時間半かけてようやく仕度が終わった。
この一ヶ月ニコラス先生のところで毎日働いた時間とほぼ同じ時間を要した。
レースのショールを羽織るといつもの荷馬車ではなく、ちゃんと屋根のついた侯爵家の馬車にマディソンと共に乗り込み王宮に向かった。
王宮までは馬車で一時間かかった。
入り口で警備に招待状を見せると、奥の部屋から侍従らしき人が現れた。
「リンドバルク侯爵夫人、クリスティアーヌ様ですね。ご案内いたします」
丁寧なお辞儀をして身だしなみを整えた中堅クラスの男性だった。
彼の後について王宮に足を踏み入れる。デビューの日に一度来たことがあると思うが、今の私には記憶がないので初めてと同じだ。
広い廊下の右端を歩いていき、ずんずんと奥に進む。
案内人は後ろに目が付いているのか、後ろをみずに常に一定の距離を保ち私の前を行く。
途中ここで勤める人たちなのか何人かとすれ違い、皆が立ち止まって私に軽く会釈してくれる。
その度に会釈を返しそうになるが、私は侯爵夫人なのだから悠然と構えて歩いて行った。
ずんずんと奥へ向かい、どこまで行くのだろうと思っていると入り口の両脇に一人ずつ人が立つ扉の前で止まった。
「リンドバルク侯爵夫人をお連れしました。お取り次ぎを」
ここまで案内してくれた侍従がその内の一人に声をかけると、入り口にいた男性が頷いて部屋の中に入って行った。
「お入りください」
すぐに中から戻ってきて彼がそう言い、片側の扉を開け放ち、案内してくれた侍従の人が私に中に入るよう言った。
「失礼いたします」
言われるままに部屋に入ると、部屋の中央に置かれた豪華な応接セットに座る二人の女性が目に入った。
お茶会の会場かと思ったが、他に人もおらずお茶もない。
自分は一体どこへ案内されたのか。
バタンと扉が閉まると、片方のブルネットの女性が立ち上がった。
「クリスティアーヌ・リンドバルク?」
「は、はい」
名前を呼ばれ返事をしてお辞儀する。
「いきなりこんなところへつれてきてごめんなさい。お茶会の前にあなたとお話したかったの」
何となくだが、目の前の二人が誰なのか予想がついた。
先ほどの入り口の二人は恐らく護衛。王宮内で護衛が護る部屋にいて、私より少し年上の女性たち。
「私は第二皇子の妃。イヴァンジェリンです。そしてこちらが皇太子妃のエレノア様です」
イヴァンジェリン妃に紹介された明るい栗毛のエレノア妃が軽く会釈して微笑んだ。