政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
診療所にある保育園の運営は順調だった。
私……リンドバルク侯爵夫人の寄付で色々な設備や備品を設置した。
子ども用の机椅子やベビーベッド、おもちゃに絵本。子ども用の食器も職人に頼んで木でつくってもらった。少し大きい子どもたちをお昼寝させる大きな寝具も特注した。
まだ歩けない子どもたちを散歩させる大きな乳母車もつくった。
それが職人さんたちの収入にもつながり、噂が広がり手伝いたいという人も増えた。
預かる子どもは一歳児が一人。後は二歳から五歳の子どもが全部で十人。五歳の子がおままごとよろしく下の子の面倒を見るのが可愛らしい。
今は私以外に五人の保育士さんがいる。
皆子育てを経験したベテランばかり。中には自分の子どもを預けながら来ている人もいる。
「子どもを育てているから働くのは無理だと思っていました」
そう言うのは二歳と乳幼児の子を預けながら働くグレンダさんだ。
旦那様は軍人で、今はルイスレーン様たちと同じベルトラン砦に派遣されている。
他に彼女には四人の子がいて、一番上は十歳、八歳、六歳だ。
彼女には主に五歳と四歳の子を見てもらっている。
自分の子どもにかまけてしまって他の子達の世話がおろそかになってはと、乳幼児の子の授乳の時だけは例外で仕事中は切り離す形になってしまった。
「保育園というのは働く親の代わりに子どもたちを保育する場所だから……それに戦地にいる旦那様を待っているだけでは不安でしょう」
グレンダさんはイライザさんと訪問をした軍人遺族の方に教えていただいた。夫が戦争に行き、乳飲み子を抱えて苦労している若いお母さんがいると。
私から声をかけるわけには行かず、ニコラス先生に相談して、先生から話をもちかけてもらった。
二歳違いに子どもがいる彼女の手際はとても良く、いい人に来てもらったと喜んだ。
他の四人はこどもから手が離れたばかりの人から孫守りまでした人もいる。
「クリッシー…先生がお呼びよ」
その中の一人で始めから保育園を手伝っているアメリアさんがやってきた。
「先生が?」
「急いでいるみたいだから、あ、私が代わるわ」
ちょうど今からおやつをあげようとしていた私は後を彼女に任せて先生が待つ診療所の方へ向かった。
「クリッシーです。お呼びでしょうか」
「入りなさい」
院長室の扉を叩いて声をかけると間髪いれずに中から返事がきた。
「失礼いたします」
扉を開けて中に入ろうとすると、先生だけだと思っていた部屋に他に二人の男性がいた。
「お客様ですか。すみません……出直します」
先生が用があると言うから来たのに、客がいたことに驚いたが、遠慮してそのまま部屋を出ようとした。
「大丈夫だ。こちらの方があなたに会いたいとおっしゃるので呼んだんだ」
「私に……?」
言われて先生の向かいに座る男性と、そのすぐ後ろに立っている男性に視線を移す。
「とにかく入ってここに座りなさい」
初めて見る二人だったが、先生もいるので素直に従った。
私が隣に座ると、先生が向かいの人物に向き直った。
「こちらは……」
「結構……自分から名乗る」
先生が向かいの人物を紹介しようと口を開くと、目の前のその人はそれを遮った。
「はじめまし。クリスティアーヌ殿。私はダリウス……ダリウス・ハイルという」
にこやかにその人は名乗った。
私……リンドバルク侯爵夫人の寄付で色々な設備や備品を設置した。
子ども用の机椅子やベビーベッド、おもちゃに絵本。子ども用の食器も職人に頼んで木でつくってもらった。少し大きい子どもたちをお昼寝させる大きな寝具も特注した。
まだ歩けない子どもたちを散歩させる大きな乳母車もつくった。
それが職人さんたちの収入にもつながり、噂が広がり手伝いたいという人も増えた。
預かる子どもは一歳児が一人。後は二歳から五歳の子どもが全部で十人。五歳の子がおままごとよろしく下の子の面倒を見るのが可愛らしい。
今は私以外に五人の保育士さんがいる。
皆子育てを経験したベテランばかり。中には自分の子どもを預けながら来ている人もいる。
「子どもを育てているから働くのは無理だと思っていました」
そう言うのは二歳と乳幼児の子を預けながら働くグレンダさんだ。
旦那様は軍人で、今はルイスレーン様たちと同じベルトラン砦に派遣されている。
他に彼女には四人の子がいて、一番上は十歳、八歳、六歳だ。
彼女には主に五歳と四歳の子を見てもらっている。
自分の子どもにかまけてしまって他の子達の世話がおろそかになってはと、乳幼児の子の授乳の時だけは例外で仕事中は切り離す形になってしまった。
「保育園というのは働く親の代わりに子どもたちを保育する場所だから……それに戦地にいる旦那様を待っているだけでは不安でしょう」
グレンダさんはイライザさんと訪問をした軍人遺族の方に教えていただいた。夫が戦争に行き、乳飲み子を抱えて苦労している若いお母さんがいると。
私から声をかけるわけには行かず、ニコラス先生に相談して、先生から話をもちかけてもらった。
二歳違いに子どもがいる彼女の手際はとても良く、いい人に来てもらったと喜んだ。
他の四人はこどもから手が離れたばかりの人から孫守りまでした人もいる。
「クリッシー…先生がお呼びよ」
その中の一人で始めから保育園を手伝っているアメリアさんがやってきた。
「先生が?」
「急いでいるみたいだから、あ、私が代わるわ」
ちょうど今からおやつをあげようとしていた私は後を彼女に任せて先生が待つ診療所の方へ向かった。
「クリッシーです。お呼びでしょうか」
「入りなさい」
院長室の扉を叩いて声をかけると間髪いれずに中から返事がきた。
「失礼いたします」
扉を開けて中に入ろうとすると、先生だけだと思っていた部屋に他に二人の男性がいた。
「お客様ですか。すみません……出直します」
先生が用があると言うから来たのに、客がいたことに驚いたが、遠慮してそのまま部屋を出ようとした。
「大丈夫だ。こちらの方があなたに会いたいとおっしゃるので呼んだんだ」
「私に……?」
言われて先生の向かいに座る男性と、そのすぐ後ろに立っている男性に視線を移す。
「とにかく入ってここに座りなさい」
初めて見る二人だったが、先生もいるので素直に従った。
私が隣に座ると、先生が向かいの人物に向き直った。
「こちらは……」
「結構……自分から名乗る」
先生が向かいの人物を紹介しようと口を開くと、目の前のその人はそれを遮った。
「はじめまし。クリスティアーヌ殿。私はダリウス……ダリウス・ハイルという」
にこやかにその人は名乗った。