政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
誰かが泣いている声が聞こえる。
誰?何がそんなに悲しいの?
真っ白い空間にぽつんと座り込んで泣いている。
あれは……私?それともクリスティアーヌ?
そこへ行きたいのに何故だが身体が動かない。
ふわふわと身体が浮いている。
浮いたまま何かに身体が絡め取られている。
「………で……を呼べ!」
うっすらとする意識の中で、誰かが叫んでいる。
「……てください」
「……っらたらどうする!」
「……様が慌てて………落ち着いてください」
泣いているのが誰か知りたいのにうるさくて私の声がそこまで届かない。
ぎゅうぎゅうと暖かいが硬い何かに締め付けれる。
ただでさえ苦しいのに、これでは窒息する。
「う………」
あなたは誰?何を泣いているの?訊ねたいのに声にならない。
「…ですよ……様!それでは……」
「静かにして!苦しいから離して!」
ばぁんと体を拘束する何かに思い切り手の甲を打ち付けた。
「うっ」
手の痛みで目が覚めると同時にうめき声が聞こえてぱちりと目を開いた。
「えっ」
目の前には白い壁。良く見ればたくさん飾りが付いている。
「クリスティアーヌ様、気が付かれましたか」
左横からマリアンナが声をかける。
「マ……マリアンナ?」
「目が覚めたか」
頭の上で声がして仰ぎ見ると、緑とオレンジの混じった瞳が私を見つめていた。
「え?」
目の前にあったのはルイスレーン様の顔だった。
さっき見た顔を忘れはしない。
でも何かが引っ掛かった。
「え?」
何故か私はすっぽりと彼の腕の中にいる。
拘束されていたと思ったのは彼の両腕。
私はルイスレーン様にお姫様だっこされている。
「なかなか力強い一発だった」
そう言って彼が視線を下に移す。
私が手の甲をぶつけたのは彼の胸板だった。
「きゃあ!ご、ごめんなさい」
「動かないで、落とすぞ」
慌ててじたばたと暴れる私が落ちないように更に腕に力が入った。
「お、おおお降ろしてください……」
胸の前で両手を合わせて懇願する。
見渡すとさっき玄関にいた殆ど全員がルイスレーン様とお姫様抱っこされている私の周りに集まっている。
ルイスレーン様の背が高い分、皆からよく見える。
「だめだ。あなたは気絶して倒れたんですよ。このまま部屋まで運びます」
「だ、大丈夫です。大丈夫ですから」
「だめだ」
仰ぎ見て訴えるがルイスレーン様はまったく頼みを聞いてくれない。
「重いですから……」
「あなた一人下げられないようでは軍では勤まりません。もっと体格のいい負傷兵をおぶったこともありますから、それに比べれば全然軽い」
「…………あ、そうですか」
男の負傷兵と比べられて軽いと言われても複雑な気分だ。
自分が言ったことに私がどのように反応しているか彼はまったく気付いていない。
私の見える範囲の人たちも渋い顔をしている。
「クリスティアーヌ様、旦那様の言うとおりになさってください。暴れると落ちますよ」
ルイスレーン様の横からダレクが声をかける。
気まずくなった空気が和らいだ。
かなりできる執事だ。
「マリアンナ、人をやって彼女の部屋を整えるように」
「畏まりました」
主の指示を受けて、マリアンナがマディソンと何人かを先に二階へ向かわせる。
その後を彼は私を抱いたまま上がろうとする。
「階段くらい自分で上がれます。降ろして……」
「病人は大人しくしていなさい。階段を昇る途中でまた倒れたらどうするのです」
「もう平気です。は、恥ずかしいですから……お願いします」
憧れのお姫様抱っこ。でも心の準備が出来ていない。
「そこまで言うなら上に着いたら降ろしてあげよう」
宣言したとおり彼は一番上まで辿り着くと、ようやく降ろしてくれた。
「本当に大丈夫なのか?」
降ろされてもまだ手を伸ばせば触れる距離にいるが、気持ちはいくらか落ち着いた。
「……コ、コルセットがきつくて息ができなかっただけですから」
どこも悪くない。窒息しそうになっただけだと説明する。
「コルセット?」
ルイスレーン様の視線が身体の身頃部分に動く。
「だから、コルセットを脱げば楽になりますから」
「コルセット?」
「……?はい、ですから」
「コルセット……のせいで?」
「あの、ルイスレーン様?」
何度もコルセットと呟く。
「………った」
「え?」
「また……あなたを怖がらせてしまったのかと思った」
安堵のため息とともにルイスレーン様が呟いた。
誰?何がそんなに悲しいの?
真っ白い空間にぽつんと座り込んで泣いている。
あれは……私?それともクリスティアーヌ?
そこへ行きたいのに何故だが身体が動かない。
ふわふわと身体が浮いている。
浮いたまま何かに身体が絡め取られている。
「………で……を呼べ!」
うっすらとする意識の中で、誰かが叫んでいる。
「……てください」
「……っらたらどうする!」
「……様が慌てて………落ち着いてください」
泣いているのが誰か知りたいのにうるさくて私の声がそこまで届かない。
ぎゅうぎゅうと暖かいが硬い何かに締め付けれる。
ただでさえ苦しいのに、これでは窒息する。
「う………」
あなたは誰?何を泣いているの?訊ねたいのに声にならない。
「…ですよ……様!それでは……」
「静かにして!苦しいから離して!」
ばぁんと体を拘束する何かに思い切り手の甲を打ち付けた。
「うっ」
手の痛みで目が覚めると同時にうめき声が聞こえてぱちりと目を開いた。
「えっ」
目の前には白い壁。良く見ればたくさん飾りが付いている。
「クリスティアーヌ様、気が付かれましたか」
左横からマリアンナが声をかける。
「マ……マリアンナ?」
「目が覚めたか」
頭の上で声がして仰ぎ見ると、緑とオレンジの混じった瞳が私を見つめていた。
「え?」
目の前にあったのはルイスレーン様の顔だった。
さっき見た顔を忘れはしない。
でも何かが引っ掛かった。
「え?」
何故か私はすっぽりと彼の腕の中にいる。
拘束されていたと思ったのは彼の両腕。
私はルイスレーン様にお姫様だっこされている。
「なかなか力強い一発だった」
そう言って彼が視線を下に移す。
私が手の甲をぶつけたのは彼の胸板だった。
「きゃあ!ご、ごめんなさい」
「動かないで、落とすぞ」
慌ててじたばたと暴れる私が落ちないように更に腕に力が入った。
「お、おおお降ろしてください……」
胸の前で両手を合わせて懇願する。
見渡すとさっき玄関にいた殆ど全員がルイスレーン様とお姫様抱っこされている私の周りに集まっている。
ルイスレーン様の背が高い分、皆からよく見える。
「だめだ。あなたは気絶して倒れたんですよ。このまま部屋まで運びます」
「だ、大丈夫です。大丈夫ですから」
「だめだ」
仰ぎ見て訴えるがルイスレーン様はまったく頼みを聞いてくれない。
「重いですから……」
「あなた一人下げられないようでは軍では勤まりません。もっと体格のいい負傷兵をおぶったこともありますから、それに比べれば全然軽い」
「…………あ、そうですか」
男の負傷兵と比べられて軽いと言われても複雑な気分だ。
自分が言ったことに私がどのように反応しているか彼はまったく気付いていない。
私の見える範囲の人たちも渋い顔をしている。
「クリスティアーヌ様、旦那様の言うとおりになさってください。暴れると落ちますよ」
ルイスレーン様の横からダレクが声をかける。
気まずくなった空気が和らいだ。
かなりできる執事だ。
「マリアンナ、人をやって彼女の部屋を整えるように」
「畏まりました」
主の指示を受けて、マリアンナがマディソンと何人かを先に二階へ向かわせる。
その後を彼は私を抱いたまま上がろうとする。
「階段くらい自分で上がれます。降ろして……」
「病人は大人しくしていなさい。階段を昇る途中でまた倒れたらどうするのです」
「もう平気です。は、恥ずかしいですから……お願いします」
憧れのお姫様抱っこ。でも心の準備が出来ていない。
「そこまで言うなら上に着いたら降ろしてあげよう」
宣言したとおり彼は一番上まで辿り着くと、ようやく降ろしてくれた。
「本当に大丈夫なのか?」
降ろされてもまだ手を伸ばせば触れる距離にいるが、気持ちはいくらか落ち着いた。
「……コ、コルセットがきつくて息ができなかっただけですから」
どこも悪くない。窒息しそうになっただけだと説明する。
「コルセット?」
ルイスレーン様の視線が身体の身頃部分に動く。
「だから、コルセットを脱げば楽になりますから」
「コルセット?」
「……?はい、ですから」
「コルセット……のせいで?」
「あの、ルイスレーン様?」
何度もコルセットと呟く。
「………った」
「え?」
「また……あなたを怖がらせてしまったのかと思った」
安堵のため息とともにルイスレーン様が呟いた。