政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
ルイスレーン様は私が倒れたのは彼が怖がらせたせいだと思ったみたいだ。
実際私が意識を失って彼の胸に倒れるまで彼と視線を合わせていた。
どうやら以前のクリスティアーヌは彼を見るたび怯えていたらしい。
それで責任感を感じて世話を焼いてくれたのか。
怯えて気絶したなら余計に逆効果だと思うが、そこに考えが至らなかったところに彼が相当焦っていたのが伺える。
「コルセット……本当に?」
まだ少し疑っているのか何度も訊ねてくる。
「本当です。実は今も少し……」
腰に手を当てて思い切り深呼吸して酸素を取り込む。コルセットのせいでお腹に酸素が送りにくいのでどうしても胸式呼吸になる。
それがコルセットで盛り上げた胸を更に強調してしまう。
一瞬ルイスレーン様の視線が私の胸元に向いたように思った。
「コルセット……申し訳ございません。私の責任です」
後から上がってきたマリアンナがコルセットのせいで私が気を失ったことを耳にして駆け寄ってきた。
「マリアンナのせいではないわ。コルセットに慣れていない私が悪いのだから」
「ですが、そのせいで気を失われたのですから、やはり私が悪いのですわ。少々張り切りすぎたかもしれません。旦那様が久し振りにお帰りになられたと言うのに、台無しにしてしまいました」
「それを言うなら私が気を失わなければ……コルセットがきついって言えばよかった」
「いえ、コルセットに慣れていらっしゃらないことを考慮しなかった私が…」
「そのくらいにしておきなさい」
二人で私が、いえ、私がと言い合っているとルイスレーン様が割って入った。
「二人の言い分はわかった。マリアンナの努力は認めるし、成果はあった。それより早く脱がしてあげた方がいいのでないか、また呼吸困難になってしまうぞ」
そう言ってルイスレーン様が私の顎を持って顔をあげさせる。
顔色を確認しているのだろうが、まじまじと見られるとさすがに照れる。
黒の瞳孔の周りに緑にオレンジを溶かしたような虹彩。
目が覚めた時にも見えた瞳の色。
不思議な色だなぁと思うが、何か違和感を感じる。それが何なのか考えてぼうっとする。
息がかかるくらい距離が近くて困ってしまう。
女性との浮いた噂がないときいていたが、だからと言って女性慣れしていないとは言いきれない。
これはわざとなの?
軽々とお姫様抱っこをして男らしさを見せつけ、その次はアゴくい?
「あの、ほんとに……だいひょうぶ……」
見つめられて恥ずかしいのと、噛んでしまったことで一気に顔が火照るのがわかった。
「顔が赤い……まだ苦しいのか」
どうやらまた息苦しいと彼は勘違いしているようだ。
「旦那様、後は私が……」
マリアンナが察してルイスレーン様の前から私を押し出してくれた。
「旦那様も湯浴みの用意ができております。早くゆっくりなさってください。お食事はいつでもご用意できますが、どうなさいますか」
「では、いつも夕食をとっていた時間に……八時で構わないか?」
マリアンナから私に視線を移し、ルイスレーン様が訊いてくる。
「は、はい」
ニコラス先生の所へ通うようになってからは夕食はもっと早い時間に取っていたが、ルイスレーン様が帰ってきたからには彼のリズムに合わせなければならない。
「旦那様、クリスティアーヌ様はいつも夕食は六時にいただいております。それでは少し遅いかと」
「マリアンナ、私のことはいいのよ。旦那様が八時とおっしゃったなら、その時間に……」
「そうか、では六時半では?今からなら一時間はある。それだけあれば私は支度が出来る。あなたももう少しゆったりしたドレスに着替える必要があるだろう。それでいいか」
まさかマリアンナの提案を受け入れ譲歩してくれるとは思わず、しかも私の意見を訊こうとしてくれていることに驚き、目を丸くしてルイスレーン様を見返した。
特に気分を害しているようには見えない。
それどころか少し日に焼けたその顔には、特にどんな感情も見えない。
「やはりそれでは遅いか?」
「いえ、それで……いいです」
「そうか、ではまた後で」
「はい………」
向かい合わせにそれぞれの個室があり、その中央には夫婦の主寝室が配置されている。
私の部屋の反対側にある扉へと向かうルイスレーン様を目で追いながら、私はあることに気づき、呼び止めた。
「だ、旦那様……」
「何か?」
部屋に入りかけていたルイスレーン様が体をこちらに向けて訊ねる。
向かいの扉の前で私も彼に正面を向き、軽く膝を曲げ腰からお辞儀する。
「お帰りなさいませ。お勤めご苦労様でした。ご無事で何よりです」
「………」
表情が読みにくくても彼が驚いたのが何となくわかった。
実際私が意識を失って彼の胸に倒れるまで彼と視線を合わせていた。
どうやら以前のクリスティアーヌは彼を見るたび怯えていたらしい。
それで責任感を感じて世話を焼いてくれたのか。
怯えて気絶したなら余計に逆効果だと思うが、そこに考えが至らなかったところに彼が相当焦っていたのが伺える。
「コルセット……本当に?」
まだ少し疑っているのか何度も訊ねてくる。
「本当です。実は今も少し……」
腰に手を当てて思い切り深呼吸して酸素を取り込む。コルセットのせいでお腹に酸素が送りにくいのでどうしても胸式呼吸になる。
それがコルセットで盛り上げた胸を更に強調してしまう。
一瞬ルイスレーン様の視線が私の胸元に向いたように思った。
「コルセット……申し訳ございません。私の責任です」
後から上がってきたマリアンナがコルセットのせいで私が気を失ったことを耳にして駆け寄ってきた。
「マリアンナのせいではないわ。コルセットに慣れていない私が悪いのだから」
「ですが、そのせいで気を失われたのですから、やはり私が悪いのですわ。少々張り切りすぎたかもしれません。旦那様が久し振りにお帰りになられたと言うのに、台無しにしてしまいました」
「それを言うなら私が気を失わなければ……コルセットがきついって言えばよかった」
「いえ、コルセットに慣れていらっしゃらないことを考慮しなかった私が…」
「そのくらいにしておきなさい」
二人で私が、いえ、私がと言い合っているとルイスレーン様が割って入った。
「二人の言い分はわかった。マリアンナの努力は認めるし、成果はあった。それより早く脱がしてあげた方がいいのでないか、また呼吸困難になってしまうぞ」
そう言ってルイスレーン様が私の顎を持って顔をあげさせる。
顔色を確認しているのだろうが、まじまじと見られるとさすがに照れる。
黒の瞳孔の周りに緑にオレンジを溶かしたような虹彩。
目が覚めた時にも見えた瞳の色。
不思議な色だなぁと思うが、何か違和感を感じる。それが何なのか考えてぼうっとする。
息がかかるくらい距離が近くて困ってしまう。
女性との浮いた噂がないときいていたが、だからと言って女性慣れしていないとは言いきれない。
これはわざとなの?
軽々とお姫様抱っこをして男らしさを見せつけ、その次はアゴくい?
「あの、ほんとに……だいひょうぶ……」
見つめられて恥ずかしいのと、噛んでしまったことで一気に顔が火照るのがわかった。
「顔が赤い……まだ苦しいのか」
どうやらまた息苦しいと彼は勘違いしているようだ。
「旦那様、後は私が……」
マリアンナが察してルイスレーン様の前から私を押し出してくれた。
「旦那様も湯浴みの用意ができております。早くゆっくりなさってください。お食事はいつでもご用意できますが、どうなさいますか」
「では、いつも夕食をとっていた時間に……八時で構わないか?」
マリアンナから私に視線を移し、ルイスレーン様が訊いてくる。
「は、はい」
ニコラス先生の所へ通うようになってからは夕食はもっと早い時間に取っていたが、ルイスレーン様が帰ってきたからには彼のリズムに合わせなければならない。
「旦那様、クリスティアーヌ様はいつも夕食は六時にいただいております。それでは少し遅いかと」
「マリアンナ、私のことはいいのよ。旦那様が八時とおっしゃったなら、その時間に……」
「そうか、では六時半では?今からなら一時間はある。それだけあれば私は支度が出来る。あなたももう少しゆったりしたドレスに着替える必要があるだろう。それでいいか」
まさかマリアンナの提案を受け入れ譲歩してくれるとは思わず、しかも私の意見を訊こうとしてくれていることに驚き、目を丸くしてルイスレーン様を見返した。
特に気分を害しているようには見えない。
それどころか少し日に焼けたその顔には、特にどんな感情も見えない。
「やはりそれでは遅いか?」
「いえ、それで……いいです」
「そうか、ではまた後で」
「はい………」
向かい合わせにそれぞれの個室があり、その中央には夫婦の主寝室が配置されている。
私の部屋の反対側にある扉へと向かうルイスレーン様を目で追いながら、私はあることに気づき、呼び止めた。
「だ、旦那様……」
「何か?」
部屋に入りかけていたルイスレーン様が体をこちらに向けて訊ねる。
向かいの扉の前で私も彼に正面を向き、軽く膝を曲げ腰からお辞儀する。
「お帰りなさいませ。お勤めご苦労様でした。ご無事で何よりです」
「………」
表情が読みにくくても彼が驚いたのが何となくわかった。