政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
黙って椅子とテーブルの間に立ちそこに腰かけると、自分の場所に移動して使用人が席を動かして彼が座った。
すかさず給仕長がワインを持ってくる。
「お酒は飲むのか」
訊ねられ少し考える。ここでの飲酒年齢がわからないし、記憶もない。
お酒は二十歳になってからは、日本の法律だ。
愛理の時は飲めたが、あまり強くはなかった。
クリスティアーヌの体はどうだろう。
「……わかりません」
「すまない……そうだったな」
少し前の記憶がないことを忘れていたことに気づき、ルイスレーン様が謝る。
「いえ……普段飲むことがないので」
「飲んでみるか?国法では十八で飲酒可能だ」
「少しなら」
給仕のリックが注いでくれた赤ワインを口に含む。
「どうだ?」
ルイスレーン様はごくりと飲み込んだ私の様子を心配そうに見つめる。
「………まだひと口だけなのでわかりませんが、大丈夫だと思います」
五臓六腑に響き渡るとまではいかないが、体がほんわか温かくなる。
「でも初めてなので少しだけにしておきます」
「そうだな。それに空腹に飲むのはよくない」
ルイスレーン様が合図をすると、ひと皿目が運ばれてきた。
料理は全部で八品。鶏の丸焼きが出てきた頃にはお腹が一杯になっていた。
全てルイスレーン様の好物だと言うことで、料理長がかなり張り切って作ったみたいだ。
驚いたのはルイスレーン様がそれらをペロリと平らげたことだ。
私よりも多くお皿に取り分けてもらっていたのに、あっという間にお皿が空になった。
ワインも一人で殆ど一本を空けてしまった。
食事の間は主にフォルトナー先生のことや先生に教わったこと、その他のレッスンについてルイスレーン様に訊かれるままに話した。
ルイスレーン様はとても聞き上手だった。
ワインを傾けながら私の取り留めもない話に聞き入ってくれる。
私もつい調子に乗ってしまった。
「…………どうした?急に黙って」
私は自分がしゃべってばかりだと気づきふいに口を閉ざした。
「いえ………私ばかりしゃべっているなと……おしゃべりが過ぎました。すいません」
#あの人__・・・__#はこんなに私の話を聞いてくれなかった。それどころか人前以外では私とひとことも話さなかった。
いつも一方的に自分の都合ばかり口にしていた。
女のおしゃべりなど退屈だったのではと思う。
「何を謝る?私がいない間の出来事を教えてくれているのだろう?私が知りたいから聞いているのだ。何を遠慮している。それより倒れたと知らせを受けたのに、すぐに帰ってやれずすまなかった」
そうか。ルイスレーン様は自分がすぐに帰ってこれなかったことに罪悪感を持たれているのか。だから留守の間のことについて色々気を遣って聞いてくれるのか。
当主として自分の不在の間のことを知るのは当然の権利だ。
私のことを気に掛けてくれているのではないのだ。
そう思い当たると、少し……ほんの少し何故だか胸が痛かった。
「お仕事だったのです。旦那様が悪く思われる必要はありません。どうかお気になさらないでください。お医者様にも診ていただきましたし、邸の皆が良くしてくださいました」
少しも罪悪感など感じる必要はない。私が勝手に倒れて記憶を失ったのだ。彼のせいでもなんでもない。
変に気を遣わせたくなくて言ったことだったが、ルイスレーン様が複雑な顔をしている。
「どうかなさいましたか?」
「……いや、どうしてそう思う?」
「いえ……何だか浮かない顔をなさっていたので……」
「何でもない………それより、もう食事はいいのか?さっきから手が止まっているが」
ここまで頑張ったが、最後のひとくちが進まず、すでに食べることを放棄していた。
「もう、いつもの倍はいただきました」
お腹の辺りを触って満腹だと訴える。
「そうか……まだ最後のデザートが残っていると思うが、今日は何だ?」
「本日はイチゴのタルトでございます」
ルイスレーン様に訊ねられリックが答えた。
「イチゴのタルト!?」
甘酸っぱいイチゴのことを想像し声を上げた。
「もうお腹がいっぱいだそうだ。今日は……」
「あ、いえ」
断ろうとするルイスレーン様を思わず引き留める。
「……食べたいのか?」
「あ……はい」
「しかしもう食べられないのだろう?」
「はい。それはそうなのですが………甘い物は別腹といいますか………」
「要するに食べたいのだな?」
「はい」
「わかった。用意してくれ。私の分はいい」
「畏まりました」
リックに指示出し、こちらを向いたルイスレーン様はさっきとは違い楽しそうだ。
と言ってもあまり表情に変化はないのだが、目の色が何だか変わった。
「ルイスレーン様は召し上がらないのですか?」
「甘い物はあまり食べない。私はこれでいい」
そう言ってワイングラスを持ち上げる。
返事を聞いてから、そう言えば甘いものが苦手みたいなこと。手紙に書かれていたことを思い出した。
すかさず給仕長がワインを持ってくる。
「お酒は飲むのか」
訊ねられ少し考える。ここでの飲酒年齢がわからないし、記憶もない。
お酒は二十歳になってからは、日本の法律だ。
愛理の時は飲めたが、あまり強くはなかった。
クリスティアーヌの体はどうだろう。
「……わかりません」
「すまない……そうだったな」
少し前の記憶がないことを忘れていたことに気づき、ルイスレーン様が謝る。
「いえ……普段飲むことがないので」
「飲んでみるか?国法では十八で飲酒可能だ」
「少しなら」
給仕のリックが注いでくれた赤ワインを口に含む。
「どうだ?」
ルイスレーン様はごくりと飲み込んだ私の様子を心配そうに見つめる。
「………まだひと口だけなのでわかりませんが、大丈夫だと思います」
五臓六腑に響き渡るとまではいかないが、体がほんわか温かくなる。
「でも初めてなので少しだけにしておきます」
「そうだな。それに空腹に飲むのはよくない」
ルイスレーン様が合図をすると、ひと皿目が運ばれてきた。
料理は全部で八品。鶏の丸焼きが出てきた頃にはお腹が一杯になっていた。
全てルイスレーン様の好物だと言うことで、料理長がかなり張り切って作ったみたいだ。
驚いたのはルイスレーン様がそれらをペロリと平らげたことだ。
私よりも多くお皿に取り分けてもらっていたのに、あっという間にお皿が空になった。
ワインも一人で殆ど一本を空けてしまった。
食事の間は主にフォルトナー先生のことや先生に教わったこと、その他のレッスンについてルイスレーン様に訊かれるままに話した。
ルイスレーン様はとても聞き上手だった。
ワインを傾けながら私の取り留めもない話に聞き入ってくれる。
私もつい調子に乗ってしまった。
「…………どうした?急に黙って」
私は自分がしゃべってばかりだと気づきふいに口を閉ざした。
「いえ………私ばかりしゃべっているなと……おしゃべりが過ぎました。すいません」
#あの人__・・・__#はこんなに私の話を聞いてくれなかった。それどころか人前以外では私とひとことも話さなかった。
いつも一方的に自分の都合ばかり口にしていた。
女のおしゃべりなど退屈だったのではと思う。
「何を謝る?私がいない間の出来事を教えてくれているのだろう?私が知りたいから聞いているのだ。何を遠慮している。それより倒れたと知らせを受けたのに、すぐに帰ってやれずすまなかった」
そうか。ルイスレーン様は自分がすぐに帰ってこれなかったことに罪悪感を持たれているのか。だから留守の間のことについて色々気を遣って聞いてくれるのか。
当主として自分の不在の間のことを知るのは当然の権利だ。
私のことを気に掛けてくれているのではないのだ。
そう思い当たると、少し……ほんの少し何故だか胸が痛かった。
「お仕事だったのです。旦那様が悪く思われる必要はありません。どうかお気になさらないでください。お医者様にも診ていただきましたし、邸の皆が良くしてくださいました」
少しも罪悪感など感じる必要はない。私が勝手に倒れて記憶を失ったのだ。彼のせいでもなんでもない。
変に気を遣わせたくなくて言ったことだったが、ルイスレーン様が複雑な顔をしている。
「どうかなさいましたか?」
「……いや、どうしてそう思う?」
「いえ……何だか浮かない顔をなさっていたので……」
「何でもない………それより、もう食事はいいのか?さっきから手が止まっているが」
ここまで頑張ったが、最後のひとくちが進まず、すでに食べることを放棄していた。
「もう、いつもの倍はいただきました」
お腹の辺りを触って満腹だと訴える。
「そうか……まだ最後のデザートが残っていると思うが、今日は何だ?」
「本日はイチゴのタルトでございます」
ルイスレーン様に訊ねられリックが答えた。
「イチゴのタルト!?」
甘酸っぱいイチゴのことを想像し声を上げた。
「もうお腹がいっぱいだそうだ。今日は……」
「あ、いえ」
断ろうとするルイスレーン様を思わず引き留める。
「……食べたいのか?」
「あ……はい」
「しかしもう食べられないのだろう?」
「はい。それはそうなのですが………甘い物は別腹といいますか………」
「要するに食べたいのだな?」
「はい」
「わかった。用意してくれ。私の分はいい」
「畏まりました」
リックに指示出し、こちらを向いたルイスレーン様はさっきとは違い楽しそうだ。
と言ってもあまり表情に変化はないのだが、目の色が何だか変わった。
「ルイスレーン様は召し上がらないのですか?」
「甘い物はあまり食べない。私はこれでいい」
そう言ってワイングラスを持ち上げる。
返事を聞いてから、そう言えば甘いものが苦手みたいなこと。手紙に書かれていたことを思い出した。