雇われ寵姫は仮初め夫の一途な愛に気がつかない
翌朝、一睡もできなったリサがふらつく身体で姿を見せた。壁に這う様に立つものだから、慌ててディーデリックが駆け寄りその身を支える。ひとまずソファ、それかいっそベッドに連れ戻すべきかと悩むディーデリックの腕に、そっとリサの手が触れた。
一旦は外され、箱ごと返されかけたはずの物が、再びリサの指に戻っている。
震える声でディーデリックがリサの名を呼ぶ。リサは俯いたまま、小さく首を縦に動かした。
「……リサ、これは……」
「そ……そういう、ことです」
「つまり?」
「だから!」
反射的に顔を上げれば、至近距離でディーデリックの笑みがあり、リサはピシリと固まる。
「言葉で言ってください」
「……昨日までディーデリック様もこんな風だったじゃないですか!」
「今日から改めます。俺の気持ちは全部貴女に伝えますから、だから」
「それは遠慮します! 無理! 察するので安心してください!!」
「俺は察するのが苦手なので、リサは言ってくださいね、俺への気持ち」
「とりあえずこの腕を外していただけるととても嬉しいです」
いつの間にかディーデリックの腕の中に閉じ込められている。こんな事も昨日までは無かったものだから、リサは朝からどうしていいかが分からない。
明確に意思は伝えた、と言うのにディーデリックは離れるどころかさらにきつくリサを抱き締める。
「ちょっ……ディーデリック様! は、離してください! “ばか!”」
「リサ、“大好きです”」
耳元でそう囁かれて、リサの意識は半分飛んだ。しかし負けてなるかと残り半分で踏みとどまる。
そうして二人、抱き締め合いながら様々な国の言葉で罵倒と愛の言葉を飛び交い続けた。