雇われ寵姫は仮初め夫の一途な愛に気がつかない
 見ても? と視線で問えばステンが頷く。ずっとテーブルの片隅に置かれていた物だ。調印式に使われる様な仰々しさがあるが、自分が見ても構わないのであれば機密事項、などいった恐ろしい中身ではないだろう。などと気軽に目を通せば、それは予想に反して、ある意味恐ろしい物だった。

 え、と短くリサは言葉を漏らし、ややあってステンを見る。その両目は驚愕で大きく開かれており、口は言葉を紡ごうと必死に動くが驚きが先走りすぎて何も出てこない。

 中身は目録だった。土地から屋敷に始まり、そこに付随する使用人、家具、調度品、そして金や銀、宝石の数々……そして現金。それらの総額はリサが寵姫として雇われた分で得た莫大な報酬と同額、いや、それよりもさらに多い。
 これだけでも目を剥くと言うのに、書面の最後に綴られた「本当の意味での結婚を祝福する」という言葉と――クスティ・ファン・デル・イーデン、という署名。それがリサの意識を一瞬、だが確実に奪った。
 イーデンの名を持つ一族など一つしか無く、それはもちろん隣国でるイーデンの王家であり、つまりはティーアの兄であり、現国王という事に他ならない。

「なんで!?」

 どうしてイーデン国王からこんなにも恐ろしい額の祝い金が贈られるのかが分からない。簡潔極まりないリサの問いに、これまた簡潔極まりないステンの答えが返る。

「書いてある通りだろう」

 書いてある通り、とはつまりは結婚のご祝儀という言う事か。しかしその前にある「本当の意味での」という言葉にリサの背中にドッと汗が流れる。

「これは……ですから……ええと……あの……?」
「ティーアが何枚にも渡って手紙を書いていたからなあ」
「王妃さまーっ!!」
「言っておくがティーアはめでたく片付いた、というのを知らせただけで、お前達が思春期を拗らせていたのは元から知られていたからな」

 まさかの隣国にまで筒抜けであった自分達の恥ずかしすぎる関係に、リサはもう一度ソファに倒れ込む。羞恥でどうにかなりそうだ。

「これはクスティと俺からのお前達夫婦への祝いだ。遠慮なく受け取れ」

 ステンの言葉は素っ気ないが、その顔にはようやく気持ちを通じあわせたリサとディーデリックに対する祝福に満ちている。
 しかし残念ながら、羞恥に身悶えしているリサはそれに気付く事ができなかった。


< 18 / 18 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

先輩とわたしの一週間
新高/著

総文字数/11,839

恋愛(オフィスラブ)13ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop