雇われ寵姫は仮初め夫の一途な愛に気がつかない
「よろしいもなにも、ですから元々そういう話で」
「それは五年も前の話でしょう? そしてこの五年の間、お姉様とディーは仲睦まじい夫婦でいたのだから、このまま継続してもいいのではなくて?」
「仲睦まじいと言うのはティーア様と陛下のことを言うんですよ。私達の方は仮面夫婦と言うんです」
「いつもその仮面は下に落ちているのに?」
ティーアは見た目と同じく中身も真っ直ぐで美しい。だからこそ追撃の手に容赦はなく、あげくそれが無自覚なものだからどこまでも追い込んでいく。
「新婚の妻を主君に奪われた夫、から、いつの間にか主君のために妻を差し出した夫になったわよね?」
「……ソウデスネ」
「けれど結局、幼かったわたくしのためにわざわざ偽装結婚までして寵姫としての役割を担った忠義溢れる夫婦、と皆に知られてしまったんだもの、もう今さら始めの頃の話を守らなくてもいいと思うわ」
「……即バレましたねえええええ」
「こればっかりはディーが悪いわね……」
そう、こちら側の計画は五年も経った今となっては周知の事実となってしまっている。一部、リサやディーデリックに対する嫉妬から「偽善者の言い分だ」と吹聴して回っている貴族はいるが、良識のある他の貴族からは相手にはされていない。こればかりは仕方がないのだ、だって
「寵姫の部屋に毎日夫が訪問するし夜には迎えに来るしそして朝には送ってくれるってこれどう考えたっておかしいですもんね!?」
稀にリサが王宮に泊まる事があれば、その時は必ずディーデリックも付いてくる。さすがに部屋は別だが、どうしたって普通の「寵姫とその夫」の図ではない。
憶測が憶測を呼び、最終的に真実に辿り着かれてしまったのだからとんだ笑い話だ。
「ディーデリック様の生真面目さを見誤っていたのが敗因ですね」
偽装結婚の相手とはいえ、寵姫として差し出した愛の通っていない妻、という設定だったとしても、彼の生来の真面目さから女性を蔑ろには出来なかった様だ。
「だからこそ、いい加減ディーデリック様にはきちんとしたお相手が必要なんですよ!」
ディーデリックも二十五歳だ。リサの存在さえなければ昔以上に引く手数多、なんなら諸外国の姫君の心まで奪っているという話もある。いつまでも偽装の、不本意の、雑草の相手をさせるのはあまりにも可哀相だ。