キミの恋のはじまりは
な、なんか泉が優しいと調子狂うんだけど……。
それはそれで居心地悪いし……。
うろうろと視線を泳がせるけれど結局は俯くしかなくて、手の中にあるペットボトルのついている水滴を手でこすった。
お礼言いそびれちゃったな…、と気になって口を開こうとすれば、静かな眼差しに捕まって心臓が痛い。
「……ねぇ、もしかして熱とかある?」
「は?」
「だって、泉がなんか気持ち悪い……」
「なにそれ」
「いつもと違って優しいっていうか……」
私がもごもごと言うと、泉は少しだけ真顔になったあと、口元を歪めてまた大きなため息をついた。
髪をくしゃっと掻いてから、それはそれは冷たい目で私を見た。
「……べつに優しくねーし」
「あはは、ですよねー」
「ばーか」
「うんうん、ですよねー」
泉のことを優しいなんて言ってしまった自分も恥ずかしくて、適当に返事をして、またペットボトルに口をつける。
それを泉が横からぐいっと取り上げようとするものだから、口元から水が一筋零れてしまった。
「もうなにすんのよ!」
「返せ」
「はぁ?返せってみみっちいやつ!」
顎に伝ってしまった液体を急いで手で拭って、泉を睨みつけた。