キミの恋のはじまりは
「きゅ、急になに?!」
まだ痛さの残る頬を両手でさすって泉を睨んだけれど、効果はなくて泉は可笑しそうに肩を震わせている。
「ははっ、すげぇ変な顔だった」
「泉のせいでしょ!」
「あー、おもしろー」
「全然おもしろくないですけどっ?!」
いつもどおりの悪態をつく泉に戻れば、弄られているのにとたんに呼吸が楽になった。
遠くなった温もり、もう触れない手、いつもの私を見下ろす瞳。
泉は慣れた手つきで食器棚からお皿を取り出して盛り付けていく。
「……冷めちゃってるかも。レンジしたら?」
「んー、だなー。莉世は食べないの?」
「うん、家に夕飯あるから」
「そ?」
普段通り。なのに……言い表せない、心細さ。
なんとなく自分の頬を触ってみたけれど、去っていったものの名残はもうなかった。