キミの恋のはじまりは

episode 5

◆ ◆ ◆


泉の鋭い声が聞こえた。



『おい!なにしてんだよ!』



廊下にある水道の前で、私めがけて傾けられようとしている緑色の絵の具が溶けた筆洗のバケツ。

体中が麻痺したように動けなくなっていた私に、泉の切羽詰った声音がまるで解毒剤のようにゆっくりと浸透していく。



『えー、なんだよ、片桐。また高藤のこと、かばうの?』

『なんか1人だけいい子してる感じ』



クラスメイトの彼らが泉を皮肉るように嫌な笑いを浮かべている。

泉はなにか言い返そうとするように口を開けたけれど、すぐにぐっと唇を噛んで黙った。



『片桐は高藤のこと大好きだもんね~』

『ラブラブ~』



手に持った筆洗いの白いバケツをこれみよがしに揺らしながら、にやにやした目を向けて私たちをからかってくる。


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