キミの恋のはじまりは
「……帰ろっか」
泉は緩やかに微笑んで、「ほら」と私に手を差し出す。
月明かりが泉に落ちて、差し出された手のひらがほんのりと白く浮かび上がって見えた。
昼間、掴み損なった温かさがそのにある。
私のために。
「……繋がないもん」
でも、いま掴んではいけない気がして、唇を尖らせて反抗する。
「今日のお礼。さっきのじゃ足りないから、手繋いで?」
さっき、と繰り返せば、泉の腕の中を思い出し、また熱さが戻ってきた。
「む、無理!」
「んじゃ、こっち?」
泉は両手を広げて「おいで?」と首をかしげて、意地悪そうに唇を引き上げる。
「そ、それもなし!今度、なんかおごる!」
「やだ、どっちかにして。手つなぐか抱きしめさせるか」
「~っ、」
「どっち?……俺は抱きしめたいけど」
私に向かって両手を伸ばしてくるので、手を前にかざしてストップをかける。
「わ、わかった!……手、手、手にします!」
「じゃぁ、はい」
「うー…」
にっこり笑って再び差し出された手に、おずおずと自分の手を重ねる。
くぅ……。なんか、負けた感が……。
悔しい。なんか変。
そう思うに。
繋いだ手は、やっぱり温かくて、振りほどくことはできなかった。