キミの恋のはじまりは
「ここ、座って!」
エアコンをつけて、その温風が一番流れてくるあたりに泉の手を掴んで誘導する。
泉は黙ったまま、言われた場所にちょこんと腰を下ろした。
泉の前に膝立ちをして、頭からすっぽりかぶった毛布を首元でかき合わせてあげると、微かに冬の夜の香りがした。
「なにか温かい飲み物、持ってく……」
立ち上がりかけたとき、視界の端に毛布の中から腕が伸びてくるのが見えた。
ぐいっと腰を引き寄せられ体が傾いて、あっという間に泉に抱きしめられる。
背中に回った泉の腕にぎゅっと力が込められ、隙間なくその胸に閉じ込められれば、とたんに心臓が騒ぎ出す。
「っ、」
頬に触れる泉の体温。
前髪にかかる泉の熱い吐息。
私に沁みる泉のすべてに、引いたはずの想いが溢れてきて瞼がじんじんする。
「バカは、莉世のほうじゃん。さっきのあれ、なに?」
「っ、はなし、て…」
「そんなに目腫らして。電話越しだってわかるんだからな。……ひとりで泣くなよ」
「………な、泣いて、ないっ」