キミの恋のはじまりは
急いでホームへ続く階段を登れば、ベンチで空を仰ぐ莉世を見つけてほっとする。
肩で息をしながら、まっすぐ上を見上げ目元に腕を当てている。口元が僅かに歪んでいるから、涙を飲み込もうとしているんだとわかる。
俺のところで泣いてくれたらいいのに。
そしたら思いっきり抱きしめられるのに。
腕の中に閉じ込めて涙が乾くまでいくらでも拭うのに。
『大丈夫だから、誰にも言わないで』
遠い記憶の中の、耳の奥底にこびりついた莉世の声。
細くて今にも消えそうな声だったのに、裏腹に笑顔を貼り付けていた。
無理して笑うから、見えない線を引かれているようで、子どもの俺はそれ以上近づけなかった。
今は違うのに。あの時よりは守ってあげられるのに、莉世はやっぱり俺の前では泣かないんだ。