キミの恋のはじまりは

と、とりあえず話題を変えよう!



「あ、あのね。泉は、オレンジと桃とメロンならどれが好き?」



お見舞いに持ってきた果実がごろっと入ったゼリーを思い浮かべながら質問すると、即効で



「メロン。莉世はオレンジか桃でしょ」



と返ってきた。


メロンがいい、と心の中にメモを取る。


結局、泉の誕生日プレゼントを用意できなかった私は、少しでも泉の好きなものを把握したいのだ。



「じゃぁ…サッカーは好きでしょ?あのポスターの選手が一番好きなの?」



壁のポスターに視線を投げて言うと、泉は目をくるりと一周させた。



「あれはスペインで活躍してる日本人選手で………、でも、俺、野球も好きだよ。莉世、野球、生で見てみたいって言ってたよね」



サッカー好きだけど、野球も好き。



「じゃぁ、好きな色は?芸能人は?」

「莉世は水色が好きでしょ、俺も青系がいい。芸能人は莉世が見てたあのドラマに出てた……」



そこまで聞いて、あれ?とようやく思い至る。



「……なんで全部、私に繋がってるの?」



目の前の泉が恥ずかしそうにまつげを伏せた。

私の首筋を撫でて、髪を掻き分けるように後頭部へ回った指先にぐっと力が込められ、おでこがこつんとぶつかった。



「ずっと莉世しかいないっていったじゃん。莉世中心が俺の普通だから。それ以外の考え方知らない」



陰を作っていたまつげがゆっくりと上がれば、間近にあるその瞳に全てを奪われる。


いつか泉の部屋で言われた言葉。

『普通だから』

私の中に凝り固まっていた言葉。


………泉の普通って………。

………なんて優しくて甘いんだろ………。


鼻の奥がツンとしてじんわりと瞼の奥が重たくなっていく。

< 223 / 277 >

この作品をシェア

pagetop