キミの恋のはじまりは
と、とりあえず話題を変えよう!
「あ、あのね。泉は、オレンジと桃とメロンならどれが好き?」
お見舞いに持ってきた果実がごろっと入ったゼリーを思い浮かべながら質問すると、即効で
「メロン。莉世はオレンジか桃でしょ」
と返ってきた。
メロンがいい、と心の中にメモを取る。
結局、泉の誕生日プレゼントを用意できなかった私は、少しでも泉の好きなものを把握したいのだ。
「じゃぁ…サッカーは好きでしょ?あのポスターの選手が一番好きなの?」
壁のポスターに視線を投げて言うと、泉は目をくるりと一周させた。
「あれはスペインで活躍してる日本人選手で………、でも、俺、野球も好きだよ。莉世、野球、生で見てみたいって言ってたよね」
サッカー好きだけど、野球も好き。
「じゃぁ、好きな色は?芸能人は?」
「莉世は水色が好きでしょ、俺も青系がいい。芸能人は莉世が見てたあのドラマに出てた……」
そこまで聞いて、あれ?とようやく思い至る。
「……なんで全部、私に繋がってるの?」
目の前の泉が恥ずかしそうにまつげを伏せた。
私の首筋を撫でて、髪を掻き分けるように後頭部へ回った指先にぐっと力が込められ、おでこがこつんとぶつかった。
「ずっと莉世しかいないっていったじゃん。莉世中心が俺の普通だから。それ以外の考え方知らない」
陰を作っていたまつげがゆっくりと上がれば、間近にあるその瞳に全てを奪われる。
いつか泉の部屋で言われた言葉。
『普通だから』
私の中に凝り固まっていた言葉。
………泉の普通って………。
………なんて優しくて甘いんだろ………。
鼻の奥がツンとしてじんわりと瞼の奥が重たくなっていく。