キミの恋のはじまりは
「莉世、ほんとは泣き虫だよな」
「…泣いてないっ」
「いいよ、泣いて。どんな涙も俺が拭いてあげる」
触れていたおでこが離れて、くいっと引き寄せられる。
そのまま寝ている泉に覆いかぶさって、その首元に顔をうずめるように抱きしめられた。
「ねぇ、風邪じゃなくて、楽しみにしすぎて熱でたって本当?」
大好きな泉の匂いを吸い込みながら、耳元でそっと呟く。
「……たぶん。鼻や喉、全然平気だし…。俺、ダサすぎ……」
気まずそうな声を出した泉から体を離して、じっと見つめる。
泉はうろうろと視線を彷徨わせて、嫌そうに目を眇めているから思わず笑ってしまう。
「ふふふ、ほんとだね?」
「しかたないじゃん……誕生日ふたりで一緒にいれるの嬉しかったから」
「うん、私も嬉しかったよ……」
泉がそんなに私といることで喜んでくれるなんて。
泉の世界がずっと私中心だったなんて。
手放したと思ってたものはずっと続いてて、大事に泉の中にしまってくれていたんだね。
「……風邪じゃないなら、そんなにつらくないの?」
「うん?全然平気だけど…」
マットレスに手をついて、丸めていた背中を伸ばして泉に近づけば、私の髪がその頬にはらりと落ちた。
泉はそれをすくって私の耳にかけてくれる。
いつもと逆で、私の眼下にある大好きな二重の瞳。
「泉……ありがと」
その瞳にわざと捕まって近づく。
熱い吐息が欲しくて、自分の唇をそこに重ねた。
すぐに離れれば、伸びてきた泉の手に私は捕まえられたくなってしまう。
「……もっかい、して」
「〜っ、むりっ!」
「莉世、お願い」
「泉、お願いばっかりする……んっ…」
「……はぁ…熱上がりそ…」
きっと、何度だって、いつだって。
泉は手を差し伸べて、待っていてくれる。
そうして、私を捕まえてくれる。
出会った時から変わらない。
大好きなたったひとりの人。
【キミの恋のはじまりは】
本編おわり