キミの恋のはじまりは
いつもどおりあしらえばいいと思うに、莉世のことになるとどうしてもできない。
「で。さっき、ラインしたら、真由ちゃんからOKの返信来た」
葉山さんが俺の目の前にかざしたトーク画面には
『いいんですか?わーい!楽しみです!莉世もOKです!』
となんともうきうきした文字が並んでいる。
……莉世もOKですって……。
それを見てわかりやすく固まった俺を遠藤が憐れむような目でみている。
林までそのトーク画面を覗き込んで、「がんばれ」と慰めるように肩をぽんっと叩いてくる。
……いや、仕方ないし。葉山さんは「お茶友」だし。
自分をなんとか納得させようとするけれど、できるはずもない。
慌てて自分のスマホを取り出すと、ロック画面に表示されている通知を見てほっと息を吐き出す。
莉世からのラインだ。
それだけで、こんなにも安心するなんてどんだけ俺、余裕ないわけ?
『今日、葉山さんのおうちでこたくんのプラレール見てくるね!』
開いたメッセージを見て、またため息が出る。
……うん、わかってる。プラレールね。莉世の中ではたったそれだけのこと。
何も心配するようなことないし、莉世はちゃんと俺のこと好きでいてくれるし。
わかってるけれど……、わかっているからかな。
やっと手に入れた莉世だから、やっとそばにいられるようになったからか。
すごく贅沢になってるんだ、俺。
ふぅ…と気持ちを整えようと静かに息を吐き出した。
とりあえず『帰ってくるときにラインして』と返信を打って、がっくりと肩を落とす。
そんな俺の様子を見て、葉山さんはふっと意地悪な笑みを消して、眉尻を下げる。
「莉世ちゃんから連絡来ててよかったじゃん」
「……」
スマホをポケットにしまって、生温かい視線を向けてくる葉山さんを睨もうとしてやめた。
クソむかつくけど、わざわざ言いに来てくれたんだし、ちゃんと湖太郎と親のいる時に家によんでいるとわかれば、嫌だけど……仕方ない。
なんだかんだと、莉世に会う日はへらへらしながら報告しに来てくれる律儀な人だと気づいてもいる。
「………すいません。アリガトウゴザイマス」
カタカナ発音になってしまう俺の器の小ささは見逃して欲しい。
葉山さんはくすっと笑って「少し遅くなるかもだから、ちゃんと駅まで迎え行けよ」と言って教室を出て行った。
「……なんかあの人がモテるの、わかる気がするよなぁ」
林が後ろ姿を目で追いながら、「莉世ちゃんそのうちとられっかもよ?」と茶化してくる。
ムキになって反論はするのはかっこ悪いので心の中に押さえ込み、何食わぬ顔で食べかけだった焼きそばパンをかじる。
…………もし、莉世が他の誰かのものになったら。
前までなら、誰かのものになった莉世でも、幼なじみとしてそばにいられたらって思っていられたかもしれない。
でも、もう一度触れてしまったから。
俺を呼ぶゆったりとした心地よい声。
腕の中におさまってしまう華奢な体。
抱きしめた時のあたたかさが溶け合うような感触。
ふんわりとした甘い莉世の香り。
――――――― もう、誰にも渡せない。