キミの恋のはじまりは
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改札の向こう側にあらわれた莉世が俺を見つけて、小さく手を振った。
それに手を上げて応えると、微笑んで見せる莉世にじんわりと心があたたまる。
……それにしても、あの人、なにが「少し遅くなるかも」だよ。
もう21時になるじゃん。遅すぎだってーの。やっぱ、あの人、むかつくわ。
「泉、ごめんね。寒かったでしょ?」
改札を小走りで抜けてきた莉世が白い息を吐きながら、申し訳なさそうに俺を見上げる。
「んーん。平気。莉世こそ、寒くね?」
莉世の巻いているマフラーに手を伸ばして、冷たい風が入り込まないように整えてあげる。
「部活で疲れてたでしょ?もうお風呂入ってくつろいでたよね?湯冷めしない?」
「大丈夫」
「でも、私、ひとりで帰れたのに……」
「家までの道、人通りあんまりないから危ないし。それに、俺が莉世と一緒にいたくて来てんだからいいの。帰ろ」
そう言って、莉世の手を取ると、ぴくりと反応する細い指。
1回俺を見上げて何か言いたそうに唇を動かしたあと、何も言わずに頬を少しだけ赤くして俯く莉世。
「……ありがと」
再び俺に戻ってきた莉世の視線に目眩がしそうだ。
莉世の瞳の中に間違いなく俺がいて、それを見れば甘い痺れが全身を支配する。