キミの恋のはじまりは
「声かけちゃえばいいのに」
「……それができたら、こんな不審者になってないよ」
「いま莉世が乗り込んでいったら、片桐くんむしろ喜ぶと思うけど」
「……」
「クールなフリして、心の中では狂喜乱舞だね、絶対」
真由ちゃんがわりと真剣な顔して言ってくるけれど、首を横に振って俯いた。
「……このまま、待ってるからいい」
こんなふうに泉が女の子に声をかけられていることは珍しいことじゃない。今日は泉と同じ学校の女の子だけれど、違う学校の女の子のこともある。
その度に、私はこの自販機の影に身を潜ませて、じっと様子をうかがうことしかできない。
……今までを思い返せば、なんとなく気づいていた。
駅のホームで「片桐くん見れてラッキー」って言ってた子もいたし、文化祭では艶やかな声が聞こえたし、花島さんのこともあるし……。
そうなのだ。泉は、とても人気があるのだ。
高い身長にバランスいい体つき、さらりと流れる濃茶の柔らかい髪、同じ色の二重の瞳は涼しげで、鼻筋はすっきりと通っている。
さらに頭も良くて(花島さん談)、スポーツもできるとなれば、モテない方がおかしい。
微妙な距離で幼なじみしている間に、泉はひとりで勝手にかっこよくなっていたのだ。
「むぅぅ……」
声に出したつもりはなかったのだけど、無意識で漏れてしまった不満に真由ちゃんがぷっと吹き出した。
「まあまあ。不安になることもないじゃん? 片桐くん生粋の莉世狂いだから」
「そ、そっかなぁ」と自然と頬が熱くなった私に、真由ちゃんは「けっ、バカップルめ」と目を眇めた。