キミの恋のはじまりは
私の心の中のことなんて、もちろんわからない隣の彼はのんきだ。
「莉世ちゃんて、かわいいよね~。声かけるのほんとに勇気だしたんだよ、俺」
なんて、勇気自慢してくる。
にんまりとわらった彼は、私の顔を覗き込むように言った。
細められた目の奥に何とも言えない気色が見えた気がして、私は彼と合ってしまった視線を逸らして俯いた。
「いえ、そんな、こ、と、は…」
彼はつないでいた手を一瞬離すと、別の繋ぎ方でまた私の手を閉じ込める。
「…っ、」
こ、これは、いわゆる”恋人つなぎ”!!!!
指と指が1本ずつ交差している!!!!
手のひらの密着度は減ったような気もするけれど、指の絡まり度ハンパない!!!!
驚いて彼を見れば「えへ」と大して可愛らしくもない笑みを投げかけてくる。
「これからどうする?カラオケでもいく?」
頭上から落ちてくる声。
彼は空いているほうの手で私の髪を一筋掬い耳にかけながら、私の顔を覗き込んだ。
彼と目が合う。
……あ、だめだ。
嫌な目。
そう思ったときには、もう足が動かなかった。
ゾワゾワゾワ……と指先から腕へと鳥肌が広がっていく。
「……帰る」
そう小さく零したけれど、彼には届かなかったようで「え、なに?」と私に顔を近づける。
いやだ、やっぱりだめ。
この人じゃない。
「帰ります!!」
繋がっていた手を思いっきり振り払った。手が離れて風通しが良くなって一気に呼吸がしやすくなった。やっと呼吸困難から解放された感じだ。
ぽかんと目を見開いたまま動かない彼。
「ごめんなさい!付き合うのやっぱりなしにしてください!」
呆気にとられる彼を残して、私は逃げ出した。