キミの恋のはじまりは
泉の手の温かさが髪を滑っていく心地よさがこわくて、さらにきつく目を瞑った。
「いいじゃん、自然で。無理しても意味ないし」
まるで子どもを寝かしつけるかのように、包み込むように、ひどく優しく言ってくれるから、気持ちが震えて瞼の奥が熱くなる。
そんな声で言わないでよ。調子狂う。うまく言葉が出ないじゃん。
私がなにも言わずにいれば、泉の気配が遠ざかって、デスクチェアの軋む音がした。
「少ししたら帰れよ。俺、学校行くから」
「学校?」
「部活のミーティングと文化祭の準備あるから」
「……わかった」
眠気はもう跡形もなかったけれど、膝を抱えて小さくなった。
着せてくれたパーカーからする泉の匂いに溺れないように、自分を守るように、しばらくそのままでいた。