キミの恋のはじまりは
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一人になった部屋で、もう少し宿題を進めようと思うけれど、できるはずがない。
デスクチェアの背もたれに寄りかかって、天井を見上げる。
思い出すのはさっきまでいた莉世のこと。まだ部屋の中に莉世の甘い香りとふんわりとした気配が残っていて、胸が軋む。
さすがに気がついたかな……。
あんなふうに距離詰めて近づいて、無用心に髪まで触って。
最近、ブレーキの効きが悪い。近づきたい気持ちを自分でも抑えきれない時がある。
『……そっか、これ普通なんだ』
頬のぬくもりを感じそうなほど間近で、莉世はぽつりと呟いていた。
自分から近づいたくせに、視線を合わせる勇気がなくて、莉世の白い首筋を見ていた。
それでも、なんとか視線を上げて莉世を見つめれば、入れ違いのように莉世は頭を傾けて立てた膝頭に、頬をつけて目を閉じてしまった。
近くで見たかった明るい茶色の瞳は隠されてしまい、代わりに流れるようにしなやかな髪が目前にあって、手を伸ばすのを止められなかった。