キミの恋のはじまりは
声の方へ振り向けば、ドアに背中を預け、やけに爽やかな笑顔を貼り付けている兄貴がいた。
「……なに。なんか用?」
わざと乱暴に言ったはずだけど、兄貴は意に介さず、悠々と部屋に入ってきてベットの端に腰を沈めた。
「莉世の声が聞こえたから、ちょっと覗きに」
なんて自分の悪趣味をさらりと告げる。
「覗くな」
「だって見たくなっちゃうだろ~。いや、見てくれってことでしょ?!」
「そんなわけない」
「泉が冷たい……」
「マジ、うざいんだけど……」
大きなため息をついた俺を見ながら、 にんまりと頬を緩め笑う兄貴。無性に腹が立つ。
兄貴は俺よりも4歳年上の大学2年だ。
……なんで友莉さんは……、いや、高藤姉妹は兄貴を好きなんだ?
そういえば、兄貴は昔からモテた。小学生の時、兄貴のファンとかいう中学生の女子たちに絡まれて嫌だったのは1度や2度どころではない。
どこがいいのか俺にはさっぱりわからない。
……わかるのは、莉世が兄貴の前だと安心して泣けるってこと。
それがずっと悔しくて、仕方がない。
思わずじーっと兄貴を見ると、口を尖らせて「なんだよー」とかわいらしさを狙った表情を作ってみせたりするから、余計にイラつく。