キミの恋のはじまりは

やってしまった。

またやってしまった。

へろへろになりながら、駅のホームのベンチになんとか腰を沈めて一息ついた。

全速力で走ったので喉が焼け付くように熱い。全身から吹き出した汗がまとわりついて気持ちが悪い。肩で息をしながらなんとか呼吸を整えると、少し落ち着くことができた。

自己嫌悪に陥りながらぎゅっと目を閉じれば、さっきまで繋がっていた右手や彼に掬われた髪の感触が蘇ってきてそれを振り払おうと頭を軽く振った。



その気になれば、ほかに好きな人ぐらいできると思っていた。

ずっとあの人だけを見てきたから、その気にならなかっただけだと。

でも、もうやめるって決めたから。決めたのは自分なのに不甲斐なくて涙が出そう。



さっきまで一緒にいた彼だって、けっこうかっこよかったと思う。

声をかけられたとき一緒にいた友達の真由ちゃんは「イケメンじゃん!!」と目を輝かせていたし。

何より私のことを好きだと言ってくれたから、嬉しかったのは本当。だから、私も好きになれると思っていた。


そうしたら、心の中に長いこと住み着いているあの人を忘れることができるって思うのに、なかなか思うようにはいかない。



あーあ。

嫌になっちゃうなー。



閉じた目の奥が異常に熱くて、それが溢れてこないように上を向いて閉じ込める。

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